九条先輩の甘い溺愛

私の声を遮るように聞こえた声の先から、誰かが走ってきた。



「やっぱり乙葉だ。こんなところで何してるの？」


「渡瀬さん……」



私に話しかけてきたのは、幼いころ花音と仲が良かった……。確か渡瀬涼太(わたらせりょうた)って言ってたっけ。最近は写真を雑誌でみたくらいだけど……。


何を考えてるか分からない微笑みとサラサラの黒髪は健在のようだ。



「花宮……この男と知り合いなのか？」


「いえ、知りませ……」


「乙葉？なんで知らないフリするの」



私の肩を掴むと、思わずゾッとしてしまうような表情でそう問い詰めた。
その手を先輩がはらうと、パッとにこやかな微笑みを向けた。


気のせいだったの……？



「で、お前は花宮に何の用？」



先輩がイライラしたような声色で聞くと、「そう怒らないでくださいよ」と軽く笑う。



「俺は乙葉の許嫁ですから、話しかけるのだって当然の権利があるでしょう？」