九条先輩の甘い溺愛

「九条先輩だわ」


「なんで九条先輩があの女を……」


「人の彼氏とったとか噂あるじゃない、きっとその類よ」


「でも九条先輩は彼女いらないとか言ってたらしいじゃない」



そんな声が聞こえる中、九条先輩と呼ばれる人が落とした荷物を拾ってくれた。九条先輩って確か成績優秀、容姿端麗で有名な人だったかな。


先輩のサラッとした髪の毛が揺れる。



「……ありがとうございます」


「朝はごめんな、びっくりしたろ」


「いえ、怪我もないですし大丈夫です。そろそろ授業が始まるので失礼します」



授業には遅刻したくないし、早く行こう。荷物を受け取って通り過ぎようとしたとき、手首をつかまれた。



「……遅れてしまうんですが」


「君の名前、教えてくれない?これも何かの縁だと思ってさ」



私の噂、上の学年までには広まっていないのかな。私に名前を聞いてくる人なんて今までいなかったのに。
初めてのことで特に考えもせず、名前を伝えた。


「1年の花宮乙葉です」


「俺は3年の九条透、よろしく」



よろしくすることはないと思うんだけどな。
そう思いつつも流石に授業に遅れると思い、軽く会釈をして足早にその場を去った。



「花宮乙葉……ね」



これが私の人生を変えるきっかけになるなんてあの時は想像もしていなかった。