それから少しして、姉が彼女の前で泣き出している場面に遭遇した。
彼女は否定も肯定もすることなく、ただただ立っていた。彼女はそこにいるだけで全ての物事が勝手に進んでいる。まるで、意思のない駒のようだった。
姉のほうには多くの学生が心配した表情を向け、妹の方には鋭い視線と罵声を浴びせる。
俺はとてつもない不快感と怒りを覚えた。なんで赤の他人なのにこんな気持ちになるのか、全くわからなかった。
そんな彼女の姿をみて、ふと幼少期を思い出した。
確か、俺が6歳くらいの時にも双子の姉妹に会ったことがある。気の強そうな姉と正反対な妹。
その妹の表情は今でも思い出す。姉の隣にいるはずなのに、どこか寂しげで孤独な雰囲気を感じた。
幼い子供がこんな表情をするなんて喧嘩でもしたんだろうか、なんて単純なことを考えていた。
姉から離れた後、柱の裏に駆けていったその妹がなぜか気になり追いかけた。
声をかけようとして、思わず足を止める。
泣いてる……?
泣いていると気づかれないように、声を抑えながらしゃがみ込んで泣いていた。
俺は声をかけるべきか少し悩んだ後彼女にハンカチを渡した。
感情表現に長けてなかった幼いころの俺にはあれが精いっぱいだったんだと思う。
