学校について、急いでいつもの場所に向かう。


誰も来ることがない校舎裏の庭。ここが私が唯一休める場所だから。


私は有名な社長令嬢ってこともあってクラスで浮いているし、姉を羨んでいじめる悪女だと噂されているから。友人なんてできたこともない。


それにこの裏庭も結構気に入っているし。
ベンチに腰を掛けて、昨日まで読んでいた本を開く。



「あ、やべっ!!」


「え…?」



後ろから声が聞こえたと思い、振り返ると木の上から男の人が落ちてきた。



「うわっ!!」


「きゃっ!!」



ぶつかると思いぎゅっと目をつぶると、想像していた衝撃がいつまでも来なくて恐る恐る目を開く。
落ちてきた男の人は横にストンときれいに着地していた。



「悪い、驚かせた」


「いえ、大丈夫です。気にしないでください」



お父様に怒られたときのことがちらつき、一気に体がこわばる。ここでなにか令嬢らしからぬ行動でもしてしまえば、また怒られてしまう。姉をたてるだけの存在だし、期待もされていないだろうけど。



「君さ――」



男の人が何かを言おうとした途端、校舎の二階から大きな声が聞こえた。



「九条!木から飛び降りるんじゃない!いくら成績がいいからって許されないぞ!」


「やば、ばれた」



彼は先生に怒られて慌てて走っていった。成績が良くてもあんなことをする人がいるんだな。
私だったら、お父様に怒られてしばらくは寮部屋から出してもらえないだろうに。少し羨ましい。


そう考えている間に、ホームルームの予鈴が鳴った。