九条先輩の甘い溺愛




「勝負しよとか言ってましたけど……。本当にそれ私ですか?」



私の目に映るのは、多分私?みたいな動物にも見えるような不思議な絵だった。
先輩にも苦手なものがあるだなんて。



「いやぁ、絵だけは昔から下手なんだよね。君は言ってた割に上手いね」



先輩は私が描いた絵をまじまじと見つめる。
どこか変なとこがあったらどうしようと不安に思っていると、先輩が満足気な表情を見せる。


「ねぇ、これもらっていい?」


「だめですよ。提出しなきゃいけないんですから」



あからさまに悲しんだ表情を見せると、「俺の描いたやつを代わりに……」と言われて差し出される。
私はおそらく私?の絵とにらめっこする形になり、変な気持ちになりながらも丁重にお断りした。


お互いその空気が面白く感じて、しばらく笑いが止まらなかった。



「花宮は笑ってた方がかわいいよ」


「先輩も笑ってた方が、かっこいいですよ」



先輩は私をからかったつもりだったのか、私の反撃に驚いて顔が赤くなっていた。



「後輩をからかいすぎるのはやめましょうね、先輩?」






――話すことに夢中になりすぎてこの場を誰かに見られているなんて気が付きもしなかった。