「ねぇ、千景。わたしが来た時くらい、電気点けてくれても良くない?」
千景の自宅の玄関前で、真っ暗な玄関に足を踏み入れる前にわたしは言った。
「点けることないし、電球外してあるから無理。」
「はぁ?!」
「うるせーなぁ。暗くたって少しくらいは見えるだろ。」
「見えないよ!」
わたしがそう言うと、千景はわたしの手首を掴み、「俺が連れて行ってやるから。」とわたしの手を引くと、家の中に入り、ドアを閉めた。
真っ暗な中で手を引かれるなんて、相手が千景でもドキドキしてしまう。
36にもなって、こんなんでドキドキするなんて、、、情けない。
そして、作業部屋まで辿り着くと、やっと開いたドアから電気の光が差し込み、視界が開ける。
暗い廊下を歩き、明るいこの作業部屋に辿り着く瞬間が現実から夢の中に入り込む感覚に似ている気がした。
「ほら、座って。」
千景はそう言うと、普段座って作業しているのであろう椅子をわたしの方に向けた。
「座っていいの?」
「MV見るんだろ?ここに座って見るのが一番見やすい。」
そう言われ、わたしは千景の椅子に座らせてもらった。
わぁ、この椅子に座って、いつも曲作ってるんだぁ、、、
そう思うと、ワクワクした。
「じゃあ、流すぞ。」
そう言うと、千景はわたしの横に立ち、パソコンをいじると、再生ボタンをクリックした。



