──貴方に伝えたかった、たった一言。

「えっと…ここの公式を当てはめて…ここを約分して…次どうするんだっけ…」

目の前の問題にペンを頭にかつかつとゆっくりとしたリズムで優しく叩く。

やっぱり数学は分からない…。

小説読んでるから、国語とか歴史は簡単なんだけど、数学だけはどうしてもだめだ…

ふいに真希の方を見る。

私に構わず、黙々とやっている。

教えて貰うのは失礼か…。

そう思ってもう一度問題を見つめた。

「あと少しだけど分からない…」

「まずここをかけて、次にこことここを計算する。最後に移行して終わりだよ」

ふいに左から声がして、何も考えず左を向いた。

「おはよ。邪魔しちゃった?」

「せ…星?!」と思わず叫んでしまった。

「茜里はいつも俺が挨拶したらびっくりするんだから」と微笑んで言った。

勉強に集中しすぎて、足音も、ドアを開ける音すら聞こえなかった。