──貴方に伝えたかった、たった一言。

「天野 星(せい)です。以上」とだけ言って席に戻った。

教室の中がざわめく。

天野くんは何も無かったかのように、自分の席に座って、真顔で黒板を眺めていた。

え?それだけ?

天野くんには趣味や特技はないのだろうか……。

そう聞こうと思った自分がいたが、私はそんな自分を心の中でぐっと捉えた。

「はぁ…次の人」

先生がため息をして、次の人を呼んだ。

天野くんは少し寂しげな顔をしているように思えた。

         ♢

「よし、今日やることは全て終わった。各自気をつけて帰るように」

生徒全員で「は~い」と言う。

「天野。ちょっと残っててくれ」

天野くんは少し俯き、「…はい」とだけ言った。

やっぱり、さっきの自己紹介の事なんだろう。

自己紹介は大事な情報源なのに、何も得られなかった。

「茜里。今日一緒に帰らない?」

荷物を持った真希が私の席に来た。

「うん。いいよ。一緒に帰ろ」と笑みを浮かべて真希に言った。

ゆっくりと立ち上がり、荷物を持って教室を出た。

天野くんは先生の話を眉をひそめながら聞いていた。

私は…天野くんのことをもっと知りたいと思った。