──貴方に伝えたかった、たった一言。

「俺。頑張ってくるよ。樋目野」

さっきの困惑していた表情は消え、私を見る瞳に吸い込まれそうなほど、まっすぐな目だった。

そう言って天野くんはそのまま、バスケットコートに繋がるドアの方にスタスタと歩いて行った。

「うん。頑張って…」

彼に届かぬ声で私は言った。

私は少し早歩きで二階に上がり、何も言わず手を振る真希の方に走った。

「話せた?」と少し微笑んで真希は言った。

「話せたよ」

そう言って私はコートの方に目を動かした。

真希は「そっか。よかったね」と嬉しそうに言ってくれた。

コートに立つ天野くんがいた。

心配なことはたくさんある。

足のことも……。

久しぶりの試合って事も……。

全部全部心配だったけど……。

それ以上に……。

天野くんを応援してあげたかった。