──貴方に伝えたかった、たった一言。

「そ…そっか…」

天野くんは頬を指でかしかしとかいていた。

天野くんの頬が少し赤い気がする…。

気のせい…かな?

そんなことを考えていたら…。

「そろそろ帰ろうか」と言いながら天野くんは望遠鏡を片付け始めた。

「私は望遠鏡の片付けとかわからないんだけど、どうしたらいい?」

黙々と片付けをしている天野くんに訊ねる。

「樋目野は…空でも見とけよ」

あの時と同じだ。

あの桜の木の時と同じように天野くんは言った。

「うん、わかった」と私は軽く返して夜空を見上げた。

何度見ても綺麗だった。

何年経っても、忘れられないほどとても綺麗な夜空だった。

長い髪を風になびかせながら、私は無限に広がる空を、私は天野くんの隣でじっと、ベガとアルタイルをもう一度見つめた。