──貴方に伝えたかった、たった一言。

「樋目野?」

塞いだはずの右耳から微かに聞き覚えのある優しい声が聞こえた。

私は恐る恐る声のする方を目を少しだけ開けて見る。

「天野…ぐん…」

天野くんは灯りの灯ったランタンを右手に持ってしゃがみ込んでいた。

「どうしたの?痛いところある?」と言いながらランタンを地面に置く。

私は首を横に力強く振った。

「わ…わだし…暗いどこ…ぎらいなの…」

涙を両手で拭いながら天野くんに言った。

「ごめんね…こんな…ダサぐって…」

しゃっくりが合間合間に鳴りながら天野くんに言った。

「樋目野はダサくないよ。俺が目を閉じてだなんて言ったから…ごめん…」

私の背中を揺すりながら天野くんは少し俯いて言った。

「早いこと海辺に行こっか。立てる?」

天野くんは立ち上がって私に右手を伸ばした。

「…うん」

そう言って私は天野くんの手を握った。