──貴方に伝えたかった、たった一言。

「私らも帰ろっか」と言いながら制服の入った鞄を持ち上げる。

「………樋目野さん!」

バスケットコートから出ようとした瞬間、後ろから私の苗字が飛んできた。

ゆっくり振り向いて「なに?」と口角を少し上げて笑って言う。

「えっと……七月七日の夜中の十一時に…会えない?」

「え?」と私は思わず呟いてしまった。

夜の十一時?どういうことだろう…。

「それって…どういう…」

鞄が肩からズルッと落ちそうになるのを止める。

「先の話にはなるんだけど…樋目野の家行って…そこから散歩とか…どう?」と照れくさそうに言っていた。

天野くんと二人っきりの夜?そんな最高のシチュエーションがあっていいのか…。

私は口をポカンと開ける。それに気づいたのか、天野くんは首の後ろに手をあてて少し俯いた。

「ごめん…無理だよね…やっぱ忘れて」

天野くんはそう言って鞄を肩から斜めにかける。

天野くんが私の横を通り、バスケットコートの柵から出た瞬間…私は口を大きく開いた。