──貴方に伝えたかった、たった一言。

「もっと話したいと思ってね。あの桜の木の下で……」

笑みを浮かべながら天野くんは言った。

桜は散り、緑色の葉をはやしたあの桜の木だ。

天野くんが目を閉じて何かしていた時の話だ。

「あの時…なんで桜の木を見上げながら目…閉じてたの?」

疑問が増えるばかりなので天野くんに聞く。

「あぁ…それは…」と言って少し沈黙する。

「祈ってたんだ」

「祈ってた?」と私はもう一度聞く。

「俺に残った傷が治りますようにって……」

私の感はあっていた。

何かはあると思っていた。

それが…怪我のことにたどり着くなんて…。

私は少し目線を下げる。

「その時…樋目野さんがいたんだ」

下げた視線をまた戻す。

「どうしているの?って聞こうとした時にはまたあんなことを言ってたんだ…ほんとにごめん…」

私はゆっくりと首を振る。