──貴方に伝えたかった、たった一言。

「ここは?」と天野くんに話しかける。

「俺の好きな桜の木」

桜を下から見上げてぽつりと呟いた。

「好きなの?桜」天野くんの隣に行って訊ねる。

「二回も言わすな、好きなものは好きなんだよ」

一度私を見て、もう一度桜の木を見上げる。

「そっか~。そうだよね」

以前の私なら最初の一言で落ち込んでいただろう。

でも…今なら大丈夫。

「私も好きだよ!桜!」

天野くんをじっと見つめて言う。

天野くんは少しびっくりした表情を浮かべてた。

「あっ…そうだそうだ、スケッチ書かないと…」と言って少し桜の木から離れる。

私も天野くんの方に行こうとしたが…

「そこにいろ」と手を思いっきりパーにして私に向けた。

「え?なんで?」と思わず訊く。

「いいから…桜の木でも見上げて眺めてろ」

怒って言っているようには見えなかった。

持っていた鉛筆で少し上辺りの桜に向けて指して言ってきたのだ。

天野くんが言っている意味がさっぱりわからない。

私は桜の木をじっと見上げた。

「綺麗だね……」とつい独り言を私は言っていた。