キャロットナイト~その男、甘くて最強~

 「ただ歩いてるだけなのに、目立ってるね」

 また春がきて、私は2年生になった。

 だけどいまだに、みんなは私に慣れてくれない。

 じろじろ見られてる。

 それでも私はもう、顔を隠す気はない。

 マスクも眼鏡も三つ編みおさげも、やめた。

 さあ、どっからでもかかってこい。

 いつでも相手になってやる。


 「気合い入れ過ぎ。みんな繭に憧れてるだけだよ」

 私の隣を歩く咲夜は、ポンと私の肩を叩く。

 ああ、ダメダメ!

 トップになったばかりで肩に力が入ってた。

 「あの人が、現トップの青山繭?最速でてっぺんに登り詰めたっていう……」

 「おう、しかも女で初めてのトップ」

 「おれ、あの人の下になら付いてもいい」

 新1年生の男子たちが、廊下でひそひそ話をしている。

 う、うん……。
 すぐに喧嘩支度はしなくていいみたい……。

 「手を振ってあげなよ」

 咲夜は私の頭の上から微笑みかける。

 「え?何で?」

 「他の生徒がイジメられない学校環境を作るために、トップになったんだろう?1年生に優しくてするのも秩序維持に大切だよ」

 そ、そう?
 私が手を振るくらいで、ケンカ上等男子たちがおとなしくなるとは思えないけど……。

 まあ、いいか。

 私は試しに、思いっきりにこやかに右手を振ってみた。

 途端に、男子たちのドスの利いた歓声が上がる。

 「うわっ!繭さんがおれに手を振ってくれた!」

 「ふざけんな!俺だろ!!」

 瞬く間に、廊下のあちこちで悶着が起き始める。

 「全然、秩序維持になってないじゃない!?止めてくる!」

 「まあ、待ってよ」

 私が慌てて飛び出そうとしたら、咲夜から羽交い締めにされた。

 「ほら、ごらんよ」

 放せ放せともがきながら、咲夜が顎で示した方向を見る。

 「おい、お前ら。トップの親衛隊に入らないか?」

 「我々は君たちのような、血気盛んな腕っぷしの強い隊員を求めている」

 「来たれ、“青山繭親衛隊”へ!今なら隊員№1が空いている」

 よく見回すと、そこかしこで見覚えのある男子たちが新1年生を勧誘していた。

 「あれ、咲夜の裏番衆でしょ?」

 「そう、よくわかったね」

 「あの時、助けてくれた恩人だもん。みんなの顔は覚えてるよ」

 敵のアジトに連れ去られて絶体絶命だったあの時、咲夜と彼らが救い出してくれたんだもの。

 「じゃあ、もう一人の恩人にも何かご褒美くれるかい?」

 「え?ひゃあッ……!」

 咲夜は羽交い締めにしていた腕をするりと解くと、そのまま私を後ろから抱きしめた。

 「は、放して!恥かしいって!!!」

 「大丈夫、僕らは最強カップルだからね。誰にも文句は言わせない」

 咲夜は私の耳元で甘く囁く。

 熱い吐息が耳にかかる。

 私の心臓がどくどくと、早鐘を打つ。

 「かっ、カップルって言ってもトップと裏番長だし……。まだ、付き合うとかそういうんじゃ……」

 「え!僕たち付き合ってるんじゃないの!?こんなことしてるのに……!?」

 咲夜は素っ頓狂な声を上げて、むぎゅうっと抱きしめる両腕に力を入れる。

 「ちょっ……と、苦しいよぅ……」

 「やだ……放さない。今の発言取り消さないと、一生繭を放さない」

 ううん……。
 それもいいかなあ……。

 咲夜の腕の中で、私の頬も身体もカッカと熱くほてる。

 「……わたし今、とっても幸せよ。咲夜」

 「ああ、僕もさ」

 私と咲夜は騒がしい廊下の真ん中で、しばらくの間温かく抱き合っていた。