キャロットナイト~その男、甘くて最強~

 「何でこんな所で、飯食ってんだよ。どけよ」

 やはり、体育館裏はダメだった。

 あれから例のイケメンから逃げるように頑張り続けて、やっと昼食を食べられると張り切って場所探ししてたのに。

 何せどこに行っても彼がついてくる。

 いろいろ世話を焼いてくる。

 昨日は日当たりの良い中庭で一人ランチしてたら見つかった。

 だから今日は意表を突いて、ここに来たんだけど。

 「俺らのシマで弁当広げるなら、ショバ代払いな」

 意表を突き過ぎて、瞬く間に4人の不良に囲まれた。

 「何であんた、眼鏡とマスク?それ、変装でしょ?」

 「かえって目立つんだよ、ばーか」

 「ねぇ、ちょっとその顔、見せてくんない?」

 私の正面に立つ、一番体格の良い不良が、眼鏡に手を伸ばしてくる。

 「……つな」

 「はぁ?」

 「私の正面に立つな!!」

 仕方ない。

 顔に手を触れられるのは我慢できない。

 私はがら空きの正面の不良のみぞおちに膝を当てた。

 悲鳴を上げる暇もなく、不良は崩れ落ちる。

 「うわっ!?」

 残りの3人も慌て出したが、2人は肘打ちと蹴りで何とか倒し、残り1人は逃げた。

 はぁ……大変だった。

 地味にしてれば、目立たないと思ってたのにな……。

 いざこざもイジメもない学校生活が送りたいだけなのに。

 「食前の運動は終わった?」

 私はその声にギョッとして振り返った。

 「お弁当まだでしょ?一緒にランチにしようよ」

 「え、いつからそこに!?」

 「さっきから。危ない所をカッコ良く助けるタイミングを測ってたら、出る暇なくて」

 イケメンは、くすくす笑っている。

 「背後から近寄った気配を、全然感じなかった……」

 私が呆然とつぶやくと、彼は真顔で答えた。

 「だって、正面に立ったら青山さんに嫌われるからね」

 うわわっ……!
 私完全に危険人物と誤解されてる……。

 「さあ、ごはんごはん」

 彼は上機嫌で私の手を引っ張っていく。

 やっぱりさっきみたいに、手首にそっと触れてくれた。

 「……あの、あなたの名前は?」

 「え?僕の名前、覚えてないの?」

 「ご、ごめんなさい」

 入学式の後のHRの自己紹介なんて、まったく覚えていない。

 「月城咲夜だよ。よろしくね」

 咲夜は私に振り返って、少しはにかむように笑った。

 なんて、素直に笑える人なんだろう。

 私がその笑顔がなんだかうらやましくて、胸の奥がキュッと痛んだ。