ラスボスの夫に殺される悪役令嬢として転生したので、生き残ってみせる!と意気込んでいたらなぜか夫がデレ始めて戸惑っています

「俺はユキという人間に興味が湧いた。ユキについてもっと詳しく話してくれないか。君の転生前の人間なのだろう?」

 髪に口を寄せながらそういうクロークに、キャロラインはたじろぐ。まさかクロークがこんなにも転生前の自分に興味を持つとは思わなかった。

「……ユキは、こことは全く違う別の世界で二十歳を迎える前に死んでいます。ずっと病気がちで小さい頃から入退院を繰り返していました。病院ではいつも本を読み漁っていて、ここの世界について書かれた小説も、最後の入院の時に読んでいた本なんです。まさか、死んでからその小説の中のキャラクター、しかも悪役令嬢と言われるキャロラインに生まれ変わるだなんて思いもしませんでした。今でもまだ信じられません」

 苦笑しつつも、キャロラインはユキだった頃を思い出して少し悲しげに瞼を落とす。

「ユキの頃は体が弱くて本当に何もできなかった。でも、今はこうして健康なキャロラインとして生きることができています。それなら、精一杯この生を生ききって見せたい、そう思うんです。やりたいことだってできるし、美味しいものだって食べられる。見たい景色を見れるし、行きたい場所にも行けるんです。こんなに素晴らしいことはありません」

 フワッと嬉しそうに微笑むキャロラインに、クロークの心臓は大きく高鳴った。

「だから、あなたに殺されたくないんです。そして、あなたにも死んでほしくない。あなたにも、この世界で幸せに生きてほしい」

 そうキャロラインが言った瞬間、クロークはキャロラインの肩にそっと頭を下ろす。

(へえっ!?何?何?なんで!?)

 心臓が早く鳴ってうるさい。身体中の体温が一気に顔へ集まったかのように顔が熱くて仕方がない。あのクロークが、自分の肩に無防備に身を委ねている。ありえないことが起こって、キャロラインはどうしていいかわからず、ただ固まっている。

「まさか、キャロラインにそんなことを言われる日が来るとは思わなかった。君は、ユキであると同時にキャロラインなんだよな。あの気に食わないクソのような女が、まさかこんなに変貌して、俺に……俺に幸せに生きてほしいと願うなんて」

 クロークが言葉を発するたびにキャロラインの鎖骨あたりに息がかかってくすぐったい。クロークの息の熱も感じられて、キャロラインはすでにキャパオーバーだ。

「あ、あの、クローク様、そろそろ離れていただいても?」
「どうして?」
「いえ、あの、恥ずかしいといいますか、突然すぎて私も混乱しているといいますか」

 キャロラインの言葉にクロークは渋々顔を離すと、キャロラインの顔を見てフハッと笑顔になる。

「真っ赤だな」
「クローク様が突然すぎるからです!あ、あんまり見ないでください!」

 手をばたつかせてそう言ってから、キャロラインはクロークの笑顔に気づいて目を輝かせた。

(わ、あ……!笑顔だ!クローク様の楽しそうな笑顔……!)

 こんなにもはっきりと笑顔を見たのは初めてだ。嬉しくてキャロラインも思わず笑顔になると、クロークはキャロラインの笑顔を見て目を細める。

「……悪くない、な」

 ボソリ、と呟いたクロークの声はキャロラインには届かなかった。