Simple-Lover









…隙があったら口説いてやろうとは思ってた。



だって、仕方ないじゃん。俺が出会った時にはもう、彼氏が居たんだから。




年上の幼馴染み。

大学生でイケメン。




バレンタイン、会いに行くって言ったヒナを心配するフリして側に居た。


それでもって、凹んでるヒナをこっち向かせようって少しは素直に気持ちを言ってみたんだけどさ。



「あっ、早川おはよ。今日は…あんま相手にして貰えないかもよ?」
「朝からずーっと、赤い顔して、ぼやーって顔が緩んでる。まあ、ヒナっぽいっちゃあ、ヒナっぽいけど」


翌日ヒナの様子を見に、クラスへ行ってみたら、なつみもさあも揃って苦笑い。


「おい、もじゃこおはよ」
「あ…は、早川…」


俺を見て、少しはここに意識がもどって来たみたいだけど。
逆にそれで決定的にわかった。『ここにあらず』の心は俺じゃなく“ヒロにぃ”の元だって。


「ごめん…早川、ちょっと話いい?」


廊下の端に俺を連れて行ったヒナは意を決した様に話し出す。


「あ、あのね…?昨日の事なんだけど…。やっぱり…その…私はヒロにぃ以外は好きにはなれないと思うから…」

「……」

「ごめんなさい…」


まあ…薄々こうなるんじゃねーかなって昨日の時点で思ってはいたけど。
まさか、こうもあっさり一晩でね…


「……おりゃっ」
「ぎゃっ!」


その髪に手を乗っけておもっきしグシャッとしてやった。


「もじゃこがフるとか、100年早ぇーわ」

「なっ…早川!」


目を三角にして怒り出すヒナを笑う。


「いーんじゃない?お前には一途が似合うかも。」
「……」
「バカだから。」


ムッと口を尖らせたヒナにバイバイと軽く手を振って立ち去った。


仕方ねーよな…そういう…なんか一生懸命でバカ真面目なトコが可愛いって思ったんだし。
そしたらもう、報われねーじゃん、初めからって話だし。


そんな言葉を自分にかけながら過ごしたそっから放課後まで。



学校を出たら、門の所に『ヒロにぃ』が立ってた。


「ねえ、ちょっと!あの人かっこいい!」
「えー…誰なんだろう…」


下校していく女子達がそっちを見ながら去ってく。


まあ…あれだけカッコ良けりゃ目立つよな。


「ヒナなら職員室に呼び出されてるんで、もう少しかかりますよ。」


話しかけると目線をスマホから俺に移し、「ああ…昨日の。」と呟き少し微笑んだ。


「ヒナを送ってくれてありがとう。ヒナと仲良いんだってね。よく話聞くわ。“ハヤカワ”くん。」

「……バレンタインに彼女ほったらかしで随分余裕っすね。そのうち誰かにとられますよ?」

「…“ハヤカワ”くんに?」


相変わらず落ち着いていて余裕の笑み。


くそっ!
気に入らねえ。


「そうです、俺です。告白もしましたし。いつでも頂きます。」


俺も冷静なフリしてそう言って立ち去ってやったけど、これが多分俺の精一杯。


この人には敵わないんだって、何となく思った。


…昨日の時点で俺がヒナを好きだってわかってて、それで迎えに来たけれど、結局送らせた。


「…ムカつく。」


不平を口にして、それから「あーあ…」と空を仰いだ。


何で、そこまで信じられんだよ。
ヒナを………俺を。


「…信用されたら、強引に手出しなんて出来るわけねえし。」


俺がヒナを好きだってわかってて、信用した。


”ヒナが仲良しな友達だから”


「あーあ」と溜息ざまに仰ぎ見た空。


「…俺もバイトでもすっかな。」


ポツリと呟いた言葉はそこに消えてった。


「早川先輩!今、帰りですか!」


いつも手を振ってくれる後輩が俺を追いかけて来て並ぶ。


「…あれ?今日は一人?」
「はい。もう一人の子は先に帰りました。私は図書委員で先生に呼び出されてまして…」


ハッと急に目が大きく見開いた。


「よ、横に並んだら彼女さんに申し訳ない!」


いや、そんな後ずさりしなくても…


「ぎゃっ!」

ほら、ガードレールにケツがぶつかった。


「す、すみません…」
「や…つかさ、別にいつも一緒に居たヤツは彼女じゃねーし。」
「そ、そうなんですか…?」
「そう。ただの友達。」


ガードレールに張り付いたままのその子の腕を引っ張ってあげて立たせる。


「帰り、電車?」
「はい…」
「じゃあ、行こうぜ」
「っ?!は、は、は、はい!」


俺を追いかけ並ぶ顔が真っ赤。


「わっ!」

躓いてるし。


でも、「すみません、緊張しちゃって」と一生懸命に愛想笑い。


「…図書委員って言ったよね」
「はい。」
「いつ当番?」
「えっと…火曜日と木曜日…」
「そっか、じゃあ、火曜か木曜に本借りに行くわ。」
「っ!」


泣きそうな程、目を潤ませ見開いたその子は、赤い顔をそのままに「はい!」と嬉しそうに笑ってくれた。



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