Simple-Lover



私の顔色が一気に曇ったのを隣にいた、なつみとさあちゃんんが感じ取ったらしく、笑顔が消えて警戒の表情になる。


「あれ?!ヒナちゃんじゃん!久しぶり!そっかーオープンキャンパス来てたんだ。…って本当に相央大学にするの?!」
「ゆ、友香里…ほら、色々な大学を見て決めてるんじゃない?ね?ヒナちゃん?」
「えー!今の時期で決まってなかったらやばくない?あ、でも良い機会かもね!」


良い機会……??


少し小首を傾げた私に、満面の笑みを向ける友香里さん。


「良かったら、ウチらの担当している所も見に来てよ!ね?ヒロ!」
「いや、ヒナ達は午前中にうちの学部来たらしいから。」
「えー!そうなの?会わなかったってことは、うちらが裏方に回ってた時かあ…。じゃあ、ヒナちゃん、もう一回おいでよ!午後の授業内容違うし!ヒロの仕事ぶりも見れるよ!」
「わざわざもう一回来なくて良いでしょ、別に…」


ヒロにいはそう言ったけれど、友香里さんは、そんなヒロにいに意味ありげに目を細めて笑う。


「えー…何、ヒロ。もしかして、羽純との仲良しぶりを見られたくないとか?」
「ちょ、ちょっと…友香里…」

羽純さんが嗜めても特に気にせず私の方を見て普通のことのように話を続ける友香里さん。

「ヒロはさ、羽純とニコイチだから。もうね、私ら周りは二人一緒に居るのが当たり前な所があるの!彼女としてどんなもんか見ておいた方が、今後の為になるんじゃない?」


…笑顔ではあるけれど、どう考えても、敵意のある表情。


「友香里何言ってんだよ。俺は別に羽純と…「ごめんね、ヒナちゃん!」

ヒロにいが友香里さんに文句を言おうとしたら、羽純さんが言葉を被せる。


「…こんな話されたら嫌だよね。ほら、友香里…行こ。ヒロも、ごめんね。でも当番14時からでしょ?行こうよ。」
「…別に羽純が謝ることじゃないでしょ。」
「あー!また、ヒロは羽純だけそうやって!ヒロは本当に羽純は特別だよね〜。羽純が好き過ぎる!」


す、好き…過ぎる…。

ヒロにいを見ると、あーもう…と、友香里さんを見ながら困り顔をしながらため息を吐く。


「や、だからさ…お前が勝手に言っただけで、羽純は何も言ってないだろうが。」

ヒロにい…旅行の時と同じだ。
羽純さんのを否定しない。というか、「好き」っていう部分も。
そして…羽純さんは守ろうとする。
無意識…なのかな。そうなんだろうな、きっと。

気持ちが、一気に沈むと思わず俯く。
そんな私の頭に、ポンとヒロにいの手のひらが乗った。


「…ヒナ、帰ったら連絡するから。」
「うん…。」

それしか言えず、「またね」と去っていくヒロにいを見送るしかできない。


「相央大学は入らない方がいいと思うな〜。毎日、羽純とヒロの仲良しぶり…というか、ラブラブぶりを見ないといけなくなるわけだし。」

友香里がそう言って、ヒロにいの後を飄々と追いかけ去っていく。
羽純さんも、何も言わずにただ少し、会釈をして…笑顔でその後を追いかけていった。


「何、あいつら!」
「話聞いてただけの時もムカついてたけど、実際聞くと、100倍ムカつくんだけど!」


なつみとさあちゃんがキーっと怒り出す。
それを彼氏達も宥めずに、「…あれはないわ。」と苦笑い。

早川が少しふうと息を吐き出して、「用事も済んだし、とりあえず帰らねえ?」と門に向かって歩き始めた。

私達もそれに従ってトボトボと歩き出したけど。


皆、明かに私を心配して、無言になっちゃった…申し訳ないな…。


気まずい空気をどう払拭しようかと考えながらも、どうしても気持ちが上がってこない。このままじゃダメなのにと気持ちが余計に苦しくなった時だった。


「おっ!会えた!山本さん!」


明るく、落ち着いた声が前から聞こえてきて思わず顔を上げる。


あ…西山先生。


黒縁メガネは変わらず。サラッとした黒髪を真ん中分けしているのも同じだけれど、パーカーにジーンズというラフな格好が、いつもジャケットを着ているのとは違ってそれはそれでカッコよく見えて、思わずドキンと鼓動が跳ねた。


「山本さん、今日オープンキャンパス来るって言ってたから、もしかしたらーって思ってさ。ちょっと探し回ってみた。」
「さ、探し…」

私の微妙な反応を楽しそうにふふッと笑う西山先生。なんだか恥ずかしくて、少し目をそらしながら、また口を開く。


「今日…大学だったんですか?」
「そう、今日はね、“強くなるための修行”。」


おどけるように、力こぶを作ってみせる西山先生に今度は、思わず頬が緩む。

相変わらず…心地よく会話させてくれるな…西山先生は。

そう思ってた矢先…

「土曜日も授業なんて大変ですね。」
「まあね、でも山本さんに会えたし、悪いことばっかりじゃないかも。」


いつもと同じテンションでサラリとそう言われて、ドキンとまた鼓動が強く跳ねた。


「ま、またそんな事言って…。」
「や、ほんと、ほんと。山本さん、法学部もおいでよ。次の講義、俺と一緒に出られるし。」
「そうなんですか?」
「うん、まあ…いかにスパルタかわかっちゃうから、ドン引きかもしれないけど。」
「そ、そんなに大変なんですか…法学部って…」

ふふふと柔らかく笑う西山先生は、吹いてくる春の風のように穏やかで。


「皆さんも、どうです?結構、相央大学の土産話になるかもよ。オープンキャンパス参加者は途中退室できるから、お気軽にどうぞ。」

そう言って、笑顔をみんなに向ける。


「…俺、行ってみたいかも!」


さあちゃんの彼氏がそういうと、なつみも「あ、私も!」と言い出す。


「実は、尻込みしていたんです。なんとなく…私にはレベルが高いだろうなって…。」

遠慮がちにそう言うなつみと「俺もです」と同意するさあちゃんの彼氏に、西山先生は「そんな事ないよ」とニコッと笑う。


「“興味がある”と思うことは、見聞きしといて損はないと思うよ。話に聞くよりも、実際に自分で見て感じる方が自分の経験として蓄積されるわけだから。」
「確かに!私も行きたい!」
「俺も、行きたくなったかも。」

さあちゃんとなつみの彼氏も加わって、行こう!と笑顔。

それに、おずおずと若菜ちゃんも「わ、私も…」と手をあげると、早川も「確かに、巷で有名なA大学法学部の講義は見ておいた方が良いかもな」と若菜ちゃんの頭に手を乗せる。

それを見た西山先生が、また私の方に向き直った。


「山本さんはどうする?」

…いつもそうだ。私がどっちの選択をしても、西山先生は「そうだね」とか「じゃあ、どうしよっか」って良い方に導いてくれようとする。

そんな西山先生が、どんな風に講義を受けているのか、見てみたいかも。


「…私も行きます!」

ハイッと手を高らかにあげると、西山先生は、面白そうに「いいね〜」と言い、「じゃあ、案内するからついてきて」と歩き出す。


それについて歩き出した私の横になつみとさあちゃんが並んだ。


「西山先生、めっちゃかっこいいじゃん!」
「『山本さんに会えてラッキー』って言ってたね!」
「や、それはね、いつもの西山先生のノリというか…」


キラキラと目を輝かせる二人に思わず苦笑いすると、早川がその隣に並ぶ。


「…個別指導の先生って距離感近いんじゃねえの?ある程度さ。」
「え?!なに、早川ヤキモチ?!西山先生がイケメンすぎて?」
「はあ?そんなわけねーじゃん…って、まあ、あの人はなんつーか大人だけどさ…」

早川が、罰が悪そうに…頭をかきながら、隣に居た若菜ちゃんの頭をまたポンと撫でる。


「…どうせなら、ああいう人に勉強教わりたいなってのはあるよな、若菜。」
「そ、そう…ですね…。」


法学部の講堂の入り口まで来た所で、早川に続いて私も入ろうとしたら、一番後ろに居た若菜ちゃんが「あの、ヒナさん」と私を引き留めた。


「あの…。なんとなく講義を見る前の今、話すのが良いかなと思って…。」
「何?」


キョトンと小首を傾げた私に、若菜ちゃんの可愛い二重の目の中で黒目が少し潤みを増す。それに呼応するように、若菜ちゃんは一度、唇をキュッと結んでから、意を決したかのように表情を少し引き締めて口を開いた。


「私、ヒナ先輩のこと知っていたんです。いつも早川先輩の隣に居たので。ヒナ先輩は早川先輩の横にいて、とっても楽しそうで。それを含めて、早川先輩に憧れていました。早川先輩はそうやって人を笑顔にできる、素敵な人なんだな…って。
実際に、早川先輩と話をするようになって、自分が思い描いていた人だったなって思ったら、すごく嬉しくて。私、見る目があったんだって。
私だけじゃなくて、意外と…人って、見る目があって自分の目で見ている世界が正解なんじゃないかな…って思うようになりました。
だから、きっと…ヒナ先輩もご自身の目で見て感じているままで良いのでは無いかと思います。」


目を見開き、思わず真顔で若菜ちゃんを見ると、若菜ちゃんは、顔を赤くして、口を少しへの字にする。


「だ、だって!あの…く、悔しくて…あの…さっきの…わ、私は…違うって思うから。」

涙目になっている若菜ちゃんに、私もツンと鼻の奥が痛くなった。


友香里さんの「この大学には来ない方がいい」と言う言葉も、ヒロにいが羽純さんを特別、好きすぎると言うのを否定しなかったことも、消えたわけではなかったけれど。

うん…そうだ。

私がこの目で見ている世界はきっと、私にとっては正解なんだ。それを信じられなくなったら…きっと色々な事が歪んで、自分にとっての正解がわからなくなってしまう。

目の前がパッとクリアになった気がして、嬉しくなり思わず若菜ちゃんにガバッと抱きついた。

「若菜ちゃん、ありがとう!」
「っ!」
「おい、こら。襲うな。」

若菜ちゃんと私(主に若菜ちゃんだと思うけど)が入って来ないことに心配した早川が出てきて、私達を引き離そうとしたけれど、それを私が腕に力を入れて阻止。


「若菜ちゃん!また一緒にどっか行こうね!いつにする?」
「おい、受験生。」
「早川はもういなくても平気だよね!」
「…聞け。お前は受験生だ。つか、若菜。嫌なら嫌って言わないと。」
「い、嫌では無いです…」
「聞いたか!早川!」
「はいはい。わかったから、講堂に入ってくれ。」


早川が私に呆れながら、抱きついたままの私と抱きつかれたままの若菜ちゃんを押して講堂の中へと誘導する。


どことなく、ピンとした空気がある講堂の中。


受講生だけではなく、オープンキャンパスの参加者の人もいるけれど、どの人も話はしても、控えめというか、強い意志を持っているような気がして。それは、西山先生も同じ。

相変わらず優しい笑顔で私達に、「ここら辺座れば?」と見学しやすいところを案内してくれて、私の隣に自分は腰を下ろしたけれど。

いざ講義が始まると、目つきが真剣そのもので鋭ささえ感じる。
講師から、何か問題を出されると、それに即座にサラサラと引き締まった顔で答えていく西山先生。


すごい…法律家を目指す人って、こんな感じなんだ。


その西山先生の雰囲気にだろうか、それとも授業全体の雰囲気にだろうか、何故だか鼓動は高鳴って、授業自体に自然とのめり込んでいく。

もちろん、内容なんてほとんどわからない感じではあるけれど、講師の人もオープンキャンパスの人がいるからとわかりやすい事例なんかも出してくれて、本当に真面目なほとんど笑いもない授業ではあるけれど、結局90分間、夢中になって聴講してしまった。

きっと、若菜ちゃんの言葉を聞く前の私だったら、少し腰が引けていたかもしれない。ここまで集中して講義を体感できたのは、若菜ちゃんの言葉があったから。

そして、講義が終了した時に思ったこと。
“集中して勉強している時に似ている高揚感だった。”


「山本さん、どうだった?」
「は、はい…その…凄かったです。」


ポーッとしながら、反射的にそう答えた私に西山先生はいつもの優しい笑顔。

「そっか。山本さんには刺激になって良いかなって思ってたから、その予感が当たってよかった。」
「…刺激。」
「そう、山本さんて、ほら周囲の言葉をしっかり受け止めるし、普段はマイペースかもしれないけど、いざ勉強に入るとシビアでも食らいついてく感じじゃん。だから、合ってそうだなって思ってたんだよね、法学部の講義。」


「じゃあまた塾で」と去っていく西山先生。ドア付近で他の受講生に話しかけられて、楽しそうに話し始める。
その後ろから、今まで講師をしていた先生もその輪に入って来て、何やら談笑が始まった。


…講義中は皆真剣なのに。授業が終わると先生も含めてあんなに仲が良いんだ。


その雰囲気も、メリハリもすごく魅力的に見えて。

家に帰った後も、ずっと、法学部の講義と西山先生の真剣な横顔だけが、頭の中を占めていたんだって思う。

帰宅してからも、部屋の中で、ローテーブルに両肘をついて、顎を乗ってけてぼーっとしていて。


「…何だ、居るじゃん。」


気がついたら、隣にヒロにいが覗き込むように座って、私の頭をなでなでしていた。


「あ…ヒロにい…」
「やっと思い出してくれた?俺のこと。」
「な、何それ…」


「また連絡する」と言われていたのをすっかり忘れていたことに、罪悪感が込み上げて、思わずムッと唇を立てて、誤魔化す。
私の頬を覆い、優しく笑うヒロにいの顔が、どこか寂しさを纏っている気がするのは、忘れていたと言う後めたさによるものだろうか。


…けれど。
そんなヒロにいの表情を間近で見ていても、何故か脳裏に西山先生の真剣な横顔が残っている。


どうしちゃったんだろうか…私。
ヒロにいのことを忘れたことなんて一度もなかったし、ヒロにいと会っている時にヒロにい以外の人のことを考えるなんてこと、なかったのに。

何となくまだ、ぼーっとしている私にヒロにいの唇が近づいてきて、ふわりと唇同士が触れ合った。


「ヒナ。あれからすぐに家に戻ってきたの?」


ドキンと鼓動が跳ねて、ドキドキと忙しなく動き始める。

な、何で…?
別に…悪いことをしていたわけでもないのに。


「…法学部の講義を受けた。」
「おっ!どうだった?」
「何て言うか…凄かった…あっという間だった。」
「へ〜…。ヒナ、凄いね。」


おでこをくっつけてふふっと笑うヒロにいに、チクリ気持ちが痛む。

何でだろう…“西山先生に会って、誘われて…それで一緒に講義を受けた”って言えない。

でも…良いのかな。これで。


だって、ヒロにいも、羽純さんと何して、どう言うふうに接しているかなんて、私に話をしたことはない。
お互い、知らない方が良いこともあるのかもしれない。

それが…大人ってことなのかも。


そう思ったら、ヒロにいとこんなに近くにいるのに、距離を感じて、喜ばなきゃいけないはずなのに、寂しさを覚えて悲しくなる。

思わずそのまま手を持ち上げて、ぎゅっとヒロにいを抱きしめた。


「どした?ヒナ。」
「……。」


くふふと柔らかく笑う声が、耳元でする。
安心…する…な…やっぱり。

私…どうしたら、大人になって、ヒロにい卒業が叶うんだろう。

距離を感じてこんな風に甘えてたら、いつまで経っても無理だよね…。


“ヒナさんの目で見て耳で聞いて感じたことが、正解なんじゃないかって思います”


ふと思い出した若菜ちゃんの言葉。


私が…見聞きして、感じたこと。


ヒロにいの温もりに包まれて目を閉じると、ヒロにいの鼓動がより聞こえてくる。。


“ヒロにいと居ると、何よりも安心するし、嬉しい”

それが…私がずっと感じていること。


『お前と”ヒロにい”って最強じゃん』


早川の言葉も思い出す。


…この感覚が最強ってことなのかどうかはわからないけれど、少なくとも私にとっては、かけがえのないもので、私の感覚なんだ。


そう、はっきり思えたら気持ちが、とても落ち着いて穏やかになる。


「……。」

また鮮明に思い出した、今日の法学部の講義。


そうか…私、法学部の講義が自分にとって、鮮烈で、惹かれたんだ。

自分もこの世界に入りたいって。
西山先生みたいに、なりたいって…強く思ったんだ。


相変わらず落ち着く温もりに包まれ、頭も撫でてくれる心地よさに、落ち着いて気持ちを整理することができる。もっと前向きな気持ちになって目の前が開けた気がした。


ヒロにいに回している腕にぎゅっと思わず力を込める。


「…もう少し他の大学も見てみようかなって思ってる。」


そう言ったら、ヒロにいの私の頭を撫でる手のひらがぴくりと反応する。


「そう…なんだ。」
「うん。今日、相央大学に行って講義を受けてたくさん刺激をもらったの。私、法学部を目指したいかも。でも、大学受験だから併願も考えたいなって。だからね?私自身が、『これだ』と思う所をちゃんといくつか見つけて受験したい。」
「…なるほどね。」

また、私の髪にヒロにいの指がゆっくりと通されて、丁寧に頭を撫で始める。


「…どう、かな。」
「そうだね。良いと思うよ。つか、ちゃんと寝る時間作るなら、だけど。24時間勉強は禁止です。」
「わかった。多分、大丈夫。」
「多分って。」


相変わらず楽しそうに機嫌良さげにふふっと笑っているヒロにいに、もっとぎゅっとくっつく。


「…ヒナ、苦しいって。」
「だって…」
「何よ。」
「充電」

ふはっと吹き出したヒロにいに、今までなら膨れっ面で「また面白がって!嫌い!」って言って怒ってたのに、今日は何故か、そうはならない。もっともっとくっついていたいって気持ちで、さらにぎゅっと力を入れると、「ヒナ、やばい!息できない!」って楽しそうな声が上から降ってくる。


「ヒロにいが悪い。私の充電邪魔しようとした。」
「いや、邪魔はしてないでしょ…別にさ。」
「……。」
「…ヒナ、何なら今日一緒に寝る?一晩かけて充電します?」
「…………………お父さんとお母さんいるから無理。」
「すげー考えた!」
「考えてない!」


「もう終わり!」って離れようと腕を緩めたら、今度は、ヒロにいの腕が私をぎゅっと抱き寄せる。
そのまま、一度キスをしてくれる。


「…ヒナ、受験頑張ったら、またどっか行く?」
「うん!今度はね、バイトして、北海道に行きたいの!」
「おっ!いいじゃん。三食丼食わないと。味噌ラーメンも。」
「旭山動物園も行きたい!シマエナガに会いたい!」
「…『白い妖精』って呼ばれてる鳥だよね、それ。シロクマじゃないんだ。」
「シマエナガ!」
「分かったって。」


コツンとおでこをつけた先のヒロにいは本当に楽しそうで、柔らかい笑顔で。


『信じてあげたら?』
『ヒナさんの感じたままで。』


早川と若菜ちゃんの言葉がまた浮かぶ。


…羽純さんとヒロにいがどんな関係でどうお互い接しているなんてわからない。けれど、ヒロにいが私といて、こうやって笑ってくれてるって言うのが、私の目に映っているヒロにいだから。


『そこに他意はないよ。つか、絶対あり得ない。ヒナ以外に邪な気持ちなんて抱かない』
『俺が一番嫌だと思うこと知ってる?ヒナが居なくなること。』


変わらずヒロにいの腕に包まれ、穏やかに微笑みながら目を閉じた。


私は信じないと、ヒロにいの言葉を…ヒロにいを。