Simple-Lover









「うーん…別にそうは思ってて良いとは思うけどなあ。」


5月の後半の土曜日。
朝からマックに集合した、なつみとさあちゃんと私。

なつみが、カフェオレを飲みながら、少し小首を傾げてそういった。



結局3人とも、私立文系狙いだったせいもあって3年生も同じクラスなんだけど、皆んな放課後は塾が忙しいし、ゆっくりと話す暇もなくて、久しぶりに朝マックしながら話そう!という事になった。

…とはいえ、この後相央大学のオープンキャンパスに行こうと言うことになっているんだね。


「ヒナが努力してるのは、はたから見ててもよくわかるけど…それはほら、私やなつみが事情を知ってるからだしね。ヒロにいからしてみたら、急にヒナが離れてくって不安になったのかも。」


さあちゃんがエッグマックマフィンをパクリと頬張る。


そう…なのかな。
今まで、負担をかけ過ぎてたから、少し自分ごとに集中できるようになってヒロにい的に楽になるって思ったのにな…。


「中々難しいよね…こう言うことって。」


うーんとなつみが腕組みをして空を仰ぐと、そこにヌッと現れた大きな人影。


「…お前ら、マジ仲良いな。朝マックかよ。」
「あ、早川、おつかれ。」
「おはー」
「おはよ。」
「なつみもさあもヒナもさ…俺の扱い。」

苦笑いしながら、隣の席に座る早川の後ろから、「おはよー」となつみとさあちゃんの彼氏も現れる。
その後ろからは…おずおずと逃げ越しの可愛い小柄な女の子。

あれ…この子って…バレンタインの日に早川に挨拶していた子だよね。

目をぱちくりしてその子を見た陽菜に気づいた早川が、「そっか、ヒナは知ってるかもな。」とその子を自分の方に手招き。


「俺の一存で一緒に行ったら良いかなって連れてきた。高梨若菜。
2年生だけど、俺より頭いいし。相央大学狙いだって言うから。」
「す、すみません!勝手についてきてしまって!」

なつみとさあちゃんが一瞬固まった後、眉間に皺を寄せたまま、早川を見る。

「…こんな可愛い子、どっから捕まえてきたのよ。」
「早川…あんたもしかして…ナンパ?」
「はあ?!」
「ち、違います!私が勝手に早川先輩を好…」

ハッとして、あわあわとし始める若菜ちゃんは顔が真っ赤。そんな若菜ちゃんになつみとさあちゃんは目が爛々と輝く。

「やばい!めっちゃ可愛い!」
「えー何で早川?」
お前ら、言いたい放題だな、さっきから。」

相変わらず苦笑いの早川が、若菜ちゃんの頭にポンと手を優しく乗せた。

「…できればね。しばらく側に居た方がいい事情があってさ。」
「休日も…」
「そう、休日も。」

ふーんとなつみとさあちゃんは少し目を細めて早川を見てから、若菜ちゃんに優しい笑顔を向ける。

「私、なつみ。よろしくね!今日は楽しもうね!」
「私は、さあだよ〜。ねえ、そのスカート、もしかして、あのブランドの?!私、買おうか迷ってたんだよね!色違で買ってもいい?」
「それは…双子コーデになるよ…さあちゃん。」
「えー…じゃあ、なつみも買おうよ!ヒナも入れて4人でお揃い!」
「おっ!いいね、それ。」


…さすがだな、二人とも。
ちゃんと相手の子がなじみやすいように、話をする。


「私はヒナです、よろしくお願いします。」

そう言った私に、少しだけその子の瞳が揺れたような気がしたけれど、それでも嬉しそうな顔をして、「はい!よろしくお願いします!」と言ってくれた。


「つか、今日、『ヒロにい』はいるわけ?大学に。」
「え…どうだろう?」
「聞いてないの?」

早川が「珍しいね」と言わんばかりに、眉間に皺を寄せる。


「…私が今日相央大学に行くって言うと、ヒロにい来ちゃいそうだなって思って。」
「お前はその方が嬉しいんじゃないの?」
「そ、そりゃ…ヒロにいと大学で会えたら嬉しいけど…ヒロにいは今日は大学が無い日だし…」
「…お前、何か悪いもんでも食った?『ヒロにい!』って今日はテンション高くて大変そうだって思ったのに。」
「な、何それ!」

ムッとした私と早川の間に、なつみがまあまあと間に入ってくれる。


「ヒナは今、『ヒロにい卒業』を目指してるからね。」
「…何か、嫌な予感がすんだけど、一応詳細を聞こうか。」


ー事の次第をかいつまんで説明すること数分ー


「あー…」と微妙な顔をする、早川となつみとさあちゃんの彼氏達。

「何その微妙な顔。」


さあちゃんが、ムウっと私の代わりに口を尖らせる。それをさあちゃんの彼氏がまあまあって宥めて撫でる。


「や…うん。その…さ…そう言っちゃ何だけど、ちょっと“ヒロにい”が気の毒だって思ってさ。」


気の毒……。


早川が、コクリとコーヒーを一口飲んで少し渋い顔をした。


「お前がそう考えてるって、ヒロにいは直接聞いてないんだろ?なのに、急にヒナが自分から離れ始めたら、何が何だかわからなくて
不安に何だろうなーって。」
「いや、待ってよ!だって、きっかけを作ったのは、『ヒロにい』の友達じゃん!」

今度は、なつみがブウっとほっぺたを膨らますと、今度はなつみの彼氏がまあまあと宥めてる。
日常の光景と言わんばかりに、早川そのやりとりを見てからまた私に目線を戻した。

「まあ、旅行が原因かなって思ってはいるんだろうけど、あの人のことだから。つか、あの人、絶対望んでないと思うんだけど、お前が離れていくの。」

…それは、わかってる。
だから、余計にすとんと来たんだと思う。


『解放してあげて欲しい』


羽純さんの言葉が。


生まれた時から長い時間を一緒に居る私とヒロにい。きっとお互い一緒に居ることが当たり前すぎて、距離感が麻痺している所があるのかなって…塾に通い始めて、西山さん始め、色々な人と出会って世界が広がって思ったんだよね…。

私の感覚もそうだけど、きっとヒロにいもそうなんじゃないかって。
今、私を気にかけて、大切にしてくれているのも、距離感が麻痺しているからなのかな…って…


何となく沈んだ私の前で、ふうと早川が息を吐く。


「…お前さ。もっとちゃんとあの人の事考えてあげた方が良いと思うよ。つか、信じてあげた方が良いと思うけど。」


信じる……?


「私…ヒロにいの事、疑ってないよ?」
「や…そうじゃなくてさ…距離感とか、そんなん、ハタから見る印象なんてただの野次馬じゃね?って俺は思ってて。関係性なんて、本人達にしかわからないんじゃねーかなって。その…羽純って人の話より、『ヒロにい』の言葉をもっと聞いたらどうかなって思うわけよ。」
「……。」
「あー…まあ、ネガティブな言葉のが、響くようにできてるもんな、人間て。でもさ、これもはたから見ててだから、印象になっちゃうけど…お前と『ヒロにい』って、最強じゃん。」
「最強…。」
「そ、最強。」
「そう…なの?」
「…自覚なしかよ。まあ、それならやっぱお前のやってる事も意味があるかもな。『最強』の意味を自覚できる過程ってことで。」

私と早川のやりとりに、なつみとさあちゃんは、不服そうに尖らせていた唇が引っ込み、代わりに目を輝かせる。

「早川がマジで良い事言ってる!」
「絶対、若菜ちゃんの前だからカッコつけてるんでしょ!」
「は、早川先輩はずっとこんな感じで…的を得た良い事をたくさん話してくれます。」
「早川のカッコつけ!」
「お前ら…俺を下げんな、勝手に。」

なつみとさあちゃんが、早川を讃えて、早川は苦笑い。


「そろそろ行く?」


若菜ちゃんの飲んだカフェオレのカップと自分のカップを持って立ち上がり、ゴミ箱に捨てにく。
それを慌てて若菜ちゃんが追いかけて行った。


「…いい感じ過ぎない?」
「だよね。」

含み笑いのさあちゃんとなつみに私も何となく目線を二人に向ける。


『休日も?』
『そう。』

…あの子、早川が好きそうだったもんね。
早川は『彼女』とは言わなかったけれど、どんな関係であろうと休日も好きな人が一緒に居ようと言ってくれたり、実際に一緒に居てくれたりするのって、絶対嬉しい。


『ヒナ、まだ寝てんの?』
『ヒ、ヒロにい?!なんで?』
『いや、おばさんが『起こしてきて』って…何その寝癖。』

ふはって楽しそうに笑いながら、優しく私の髪を直すヒロにいの指の感触を思い出した。

…今までずっと、ヒロにいは土日にちょくちょく遊びに来てくれていた。
幼馴染で親同士が仲良しだから、昼間に会えなくても、夕方とか夜とか…来てくれたり、おばさんを通して「うちに来て」と呼び出してくれたり。

たくさん会えてたのは、多分ヒロにいが私に会おうとしてくれていたから。

その感情が、恋愛であれ、幼馴染であれ、そこにはヒロにいの私への愛情があるのは間違いない。

だって、会おうと思って行動しなければ会えないわけで。
ヒロにいは私に会うために時間を作る努力をしてくれていたんだって思う。


…今でも。


皆んなでマックを出て歩き出した所で、若菜ちゃんを挟んで、早川と並んで歩いた。


「…早川。」
「んー?」
「やっぱり今からでも私、ヒロにいに学校見学行ってくるってメッセージする。」
「ああ、そうして“あげて”。」
「…“そうしてあげて”?」
「引っかかんなよそこ。とにかく送れよ、絶対!」

私と早川の間で恐縮し、何となく歩速が遅くなってきていた若菜ちゃんの後に周り背中を押し出す早川。


「若菜!遅れ出してる。本ばっか読んで足が鈍ってんじゃね?」
「っ!だ、大丈夫です…」
「あ、また担ごうか?」
「へ、平気です!」

急に早足で…というより逃げ足で走り出した若菜ちゃんを面白そうに「待てって。転ぶぞ」と追いかける早川。


『また担ぐ』って…どんなシチュエーションで、担いだんだろうか。


なんて思いつつ、笑いながら話す二人に頬が緩む。


…よし。私もヒロにいにメッセージだ。

スマホを取り出し、メッセージを打ち始める。


『ヒロにい、おはよう!
今日は、相央大学のオープンキャンパスに行ってくるね!また帰ったら連絡します。』


シンプルだけど…いいかな、これで。

送信をしてスマホをカバンにしまうと、みんなの背中を追いかけた。


…別に、ヒロにい卒業は、疎遠にするってこととイコールではないはず。


『うーん…別にそうは思ってて良いとは思うけどなあ。』


ふとなつみの言葉を思い出す。


これから先、長く一緒に居たいからこそ、恋人としての距離感を見つけないといけないんだって…何となく思って、気持ちが前向きになり、足取りも軽く行った相央大学のオープンキャンパス。


公開授業のいくつかを見学したところでお昼ご飯の時間になった。
行った先の食堂は、見渡せるほどの大きな空間で、いくつかのブースに分かれて、それぞれメニューを渡すカウンターになっている。
大きなドライブインを彷彿とさせる作りだった。


「学食のメニュー、どれが美味しいんだろう…」
「待って!あっちにカフェもあったよ!主食少し控えめにして、デザートも食べないと!」
なつみとさあちゃんが、お財布を握りしめて目を輝かせる。


「…お前ら、朝マック結構な勢いで食ってただろ。」


早川が苦笑いすると、なつみとさあちゃんは、「あれは、朝食じゃん!もうとっくに消化したし!」と猛抗議。
ぷうっとほっぺたを膨らます二人を、デレデレ顔で、まあまあと言いながら、それぞれ本人達が食べたそうな所へと連れていく、彼氏達。


「…あいつらマジで尊敬するわ。なつみとさあの扱い神すぎねえか?」
「早川…あれが、単なる扱いが上手いって感じに見える?」
「だな。すげーだらしねえ顔してんだけど、あいつら。」


早川と二人で含み笑いしている様子を若菜ちゃんが、一歩引いた所で見ているのに気がついた。


「若菜ちゃん!何食べる?」
「あ…いえ…私は…」
「若菜、俺カツカレー大盛り食べたいから、行くぞ。」


さもそれが当たり前のように、早川は若菜ちゃんの手を握って歩き出した…けれど。

「っ?!?!?!はやっ、は、は、」

早川…若菜ちゃんが、顔真っ赤にして、テンパってるって…。

「…ハムカツもあんじゃね?コロッケカレーもあるみたいだから。」
「ち、違っ…て、て、」
「…天丼?」

絶対わざとやってるよね…。
早川だって、なつみとさあちゃんの彼氏に負けてないと思うけど、何その楽しそうなデレデレ顔。


「……。」


二人のやり取りを少し後ろから見ていたら、何だか、とてもヒロにいに会いたくなった。


ヒロにい…今日私が前もって話してたら、「んじゃ、昼飯でも一緒に食う?」って言ってくれたかな……。


そんな風に思った自分にハッとして、いけない!とふうと少し息を吐き出した。


事後報告だけど、ちゃんと知らせたんだし。帰ってからヒロにいに会った時にオープンキャンパスの話をするのも楽しみだよね。


注文のタッチパネルでメニューを見ながら、大学どう?って前に聞いた時、「かき揚げそばは絶品」そう開口一番に言っていたヒロにいを思い出した。


…ヒロにいの好物、食べてみたかったんだよね。


思わず頬を緩ませながら、それをタップ。
数量決定の画面に切り替わって確定を押そうとした瞬間に、隣から少し丸めの指がプラスの部分をタッチして、確定をそのまま押した。

驚いて横を見ると、「俺もかき揚げそばで」と口角をきゅっとあげて笑っているヒロにい。


「え…ど、どうして…」
「ほら、ヒナ、並んでるからとりあえず行くよ。」


びっくりして固まっている私をよそに、ヒロにいはサクサクお支払いをして、私の背中を押し移動させる。


「ヒナ、こっちだから。」


そう言って、私の手を引く。


う…わ……。
だ、大学の中で、ヒロにいと手を繋いでる。


“大学のキャンパスでヒロにいと手を繋いで歩く”という夢にまで見たシチュエーション。
もちろん、それは自分が大学生になってという事だったけど。


ど、どうしよう…嬉しすぎて、涙きそう…というか、視界がぼやけてきた。

強く想い過ぎたからだろうか、鼻の奥がツンとして、本当に涙が溢れてきてしまって、思わずギュッと目を瞑る。


「…どした?ヒナ。お腹空きすぎて、泣いてんの?」
「ち、違うし!」


ハハって笑いながら、手を繋いだまま、麺類カウンターの所でパネルを見てるヒロにいの横顔。


相央大学に入れば、こんな光景が日常茶飯事になる…。
うん、やっぱり絶対入らなきゃ!
絶対、ヒロにいと大学通ってお昼一緒に食べたい!

「…ヒロにい。」
「んー?」
「私、今日から24時間勉強するから」
「いつ寝んだよ、それ。」
「寝ない!勉強しかしない!」
「や…そこまですると、逆にコスパ悪くない?」
ククッと笑いながら、繋いでない方の手のひらで私の頭をポンポンと撫でるヒロにい。


「…でも、ヒナが同じ大学入ったら、こんな感じで昼飯食ったりすんだね、きっと。それはそれで楽しみかも。」
「っ!!」


ヒロにいが楽しみって言った!
これは、本当に今まで以上に頑張らなきゃ。よし、しっかり美味しいお蕎麦の味覚えて帰って、受かったらまた食べなきゃ!


「おそば大盛りで!」
「や、注文のパネルでやらないとダメだから、ヒナ。」
苦笑いのヒロにいをよそに、張り切ってお蕎麦を受け取って、みんなで取った席まで戻る陽菜。なつみとさあちゃん、その彼氏達と若菜ちゃんが一瞬固まる。


あ…そっか…知らない人連れてきちゃったもんね。


「えっと…」


なんて紹介すれば良いんだろう。皆、話だけは聞いてくれてるから、知ってる人ではあるから…。


「……“ヒロにい”です。」


そう言った私に、ヒロにいは、ふはっと笑い、早川は「おい」と呆れ顔。
けれど、ヒロにいはここに居る人達が、“自分が私にとってどういう存在なのか知っている”ってわかったようで。

「突然、すみません。俺、相央大学2年の相沢裕紀です。ヒナがいつもお世話になってます。今日は土曜日なんですけど、オープンキャンパスの手伝いに来ていて…一緒にメシ食わせてもらって大丈夫ですか?」
全員年下なのに、丁寧に話し、少し小首を傾げて微笑む柔らかオーラ満載のヒロにい。そんなヒロにいになつみとさあちゃんだけではなくて、その彼氏達も、ポーッとなってる。

唯一、目を細めてシラッとした顔している早川。


「…そのイケメンオーラなんとかなりません?」
「イケメンは、“ハヤカワくん”でしょーが。ねえ、えっと…あなたが『若菜』ちゃん?」
「は、はい…」
「お、若菜、恐れてんじゃん。イケメンオーラが通じないんだ。すげーな。」
「いや、だからさ…」

早川の前に座るヒロにいは、ポンポンと会話をする。


…何だろう。
いつの間にこんなに仲良しになったんだろうか。

小首を傾げた私に、早川は、「あ、そっか。」と思い出したような顔をする。


「お前にまだ言ってなかったっけ。俺、今、バイト一緒なんだわ、『ヒロにい』と。」


え?!うそ…そんなの聞いてない!

驚いている私をよそに、ヒロにいはしれっとかき揚げそばを食べ始める。

「お前に"ヒロにい"って言われたくない。」
「や、そこは、話の流れでしょーよ…。変なトコで引っ掛かんないでくださいよ…。」

また、仲良く喋り出した二人に、「ちょ、ちょっと待って!」と制する私。


「どういうこと?!」
「あー…ちょっと相沢さんに聞きたい事があってさ。でも連絡先わかんないし、バイト先まで会いに行ってさ…失礼かとも思ったんだけど。」
「うん。失礼だわ、かなり。」
「いや、そこは本当に申し訳ないと…」
「でも、店長が新しいバイトに!って、そのままスカウトしちゃうって言うね」

含み笑いのヒロにいに、早川は罰が悪そうにしている。

「まあ、押しかけて迷惑かけたわけだし…断りずらいじゃん。バイトでもすっかなーって思ってたタイミングだったし。」
「いや、でも異例中の異例だよ?あそこ、高校生お断りだから。」
「聞きましたよ。俺のガタイと声が好きだーって…すげえ言われました店長に。」
「つーわけで、ヒナ、ごめんね?言わなくて。早川本人が話してたら、俺も話ししようかなって思ってたからさ。」
「ううん、それは全然…。」

早川と本当に楽しそうに会話をしているヒロにい。…親しい知人や友人と話す時の表情だな…なんて思ったけれど、羽純さんや由里香さんと話していた時みたいなモヤモヤした感じはない。
むしろ、楽しそうにしているヒロにいに、何だかこっちまで嬉しくなる。

これは、相手が早川だからなのかな…。


その後、ポーッとしていたなつみやさあちゃんや、その彼氏達もみんなでワイワイ話が盛り上がり、相央大学についての話や、裕紀と早川のバイト先の話とか、色々な話をしていたら、お昼休みが終わって13:30を回っていた。

「色々話聞かせてくれてありがとうございました!」とヒロにいに満面の笑みで挨拶する。
そんな皆んなに、ヒロにいはニコッと小首を傾げて柔らかい笑顔。

「いや、こちらこそ。今の高校生って、やっぱ大人だなって思ったわ。」
「…また、イケメンがだだ漏れてますよ。」
「早川以外、大人に訂正。」
「マジで性格…。」

早川とまた、憎まれ口を叩き合い出した楽しそうに目を細めるヒロにいに、私も皆んなも、笑顔。


どこにいても、ヒロにいは人に好かれるよね…男女問わず。年齢問わず。
それって、すごい事だよね。


改めて、ヒロにいという人が好きだなって思いながら、学食を後にして、向かった中庭。


「ヒナは午後はどうすんの?次の講義何か受けてくの?」
「うーん…色々見られたし、とりあえずは大丈夫かな…」

今日、帰ったらヒロにいに会えるかな…。


「ヒロにい…「ヒロ!居た!」


また会えるか聞こうと思った矢先、その言葉を聞き覚えのある少しハスキーな女性の声が遮った。


「もー!全然LINEが既読にならないんだもん。探したよ!」


友香里…さん……と、その後ろから羽純さん…。