◇
いや…まあね?
何かあったなーとは思ってたけど。
『いつでも頂きます』
そう言った“ハヤカワ”くんは堂々としていて。
昨日、俺とヒナの間に割って入った時を彷彿させた。
…随分とまあ、厄介な人に好かれたね、ヒナ。
ヒナって昔からそうだよね…なーんか、『イイ男じゃん』てタイプを自覚無しに引き寄せて来る。
……それがまあ、俺的には気にくわないわけ。
ヒナは、俺だけに好かれてりゃいいんだよって…身勝手な感情が沸々とね。
ニコニコしながら出て来たヒナを捕まえて、旅行会社に行って。
パンフ貰って帰って来て、部屋に入った途端に腕の中に引っ張り込んだ。
イタズラする俺に困り果てたヒナが、腕の中でくるんと向きを変え、真正面に向いて首に腕を回す。
「…き、昨日ね?送ってくれたでしょ?その時にその…好きって言われた…。」
「……。」
「で、でも、今日ちゃんと断ったよ?」
「……今日。」
「だ、だって!悩んでたから……」
「…ハヤカワにしようかどうしようか?」
「ち、違うってば!」」
俺の圧に耐えられないのか、目線を逸らし、口を尖らせるヒナ
「……ヒロにぃは大人だな…って。私は…どう考えても大分子供だな…って。」
「バイト先に様子、オトモダチ連れて見に来る位?」
「ぐっ…。ごめんなさい…行って。」
や、だからね?
ごめんなさいは“来た事”じゃないんだよ、俺からしたら。
コツンとおでこをつけて、ヒナを腰から引き寄せた。
「別にいーじゃん、子供だって。」
「……。」
「ダメなわけ?俺がいーっつっても。」
「だって…似合ってた。」
…似合ってた?
一度だけ上げた目線。けれど、すぐにまた伏せる。
「あ、あの…一緒に働いていた女の人…」
ああ、舞……
「私、あの人みたいに素敵な大人の女の人じゃないし…
…色気も無いし。」
……や、お言葉ですが、ヒナさん。
今の乱れ具合で言う台詞じゃないと思う。
俺に散々イタズラされて、中途半端にはだけてるジャケットとブラウス。
そこから覗く肌。
こんなに誘惑されて、今正気でいる俺を褒めて欲しい位なんですけど。
「あ~じゃあ…ヒナ、どうしよっか。とりあえず、抱いていい?」
「っ?!」
「大人になれるかもよ。」
「人が真剣に悩んでるのに!バカ!大嫌い!」
「そうですか。」
フワリとキスを落とす。
「まあ…俺には似合うとか似合わないとかって感覚よくわかんないし、ヒナが変わりたいなーって思うなら変わればいいけどね。
でも、ヒナがどうなろうと、俺は変わんないかな。」
「変わらない…」
「うん。多分、ずっとヒナを好きなまんまじゃない?今までがそうだったみたいに。」
「なんせ、年季が違いますから」とおでこをつけたまま笑って見せたら、尖っていた口が今度はへの字に曲がる
「…ヒロにぃ」
「んー?」
「ありがとう…大好き!」
ギュウッと俺にしがみつく様にくっつくヒナを腕で引き寄せ堅く閉じ込め直した。
「んで?旅行はどこに行きたいの?」
「伊豆とか…かな…何か景色が良くてゆっくりできるところ。」
ふーん。静岡県の伊豆下田ってことか。
海もあるし、温泉もあるし…どっちかっつーとゆっくりする感じだけど。
「この前、ディズニー行きたいって言ってたじゃん。」
「でも、ディズニーは日帰りで行けるし…東京方面とか横浜とかも。
どうせなら、普段行けない所に行きたい!」
「なるほどね。」
「うん…ヒロにいは?どう?」
「良いんじゃない?家から伊豆なら近からず遠からずでゆっくり出来そうだし。」
…まあ、ヒナが居りゃどこでも良いんだけどね、俺は。
「じゃあ、とりあえず、伊豆方面のパンフレット漁りますか。」
「うん!」
「ヒナ。」
「ん?」
「もう、告白されちゃダメだよ。」
「う、うん…。」
「分かってんの?意味が。」
「ちゃ、ちゃんと断ったから…」
そうじゃなくてね?
俺以外に好かれんなってすげー身勝手な考えを強要してるんだけど、俺。
「まあ、いいよ」って鼻をすり寄せたら、くすぐったそうに笑うヒナ。
その綺麗に弧を描いた唇に自分のを重ねる。
柔らかくて甘くて…心底満たされる瞬間。
…ヒナが俺の事で何かを悩む必要なんて一切無いって思うけどね。
ほんとね、昔っからずっと変わんないよ?俺は。
ヒナを自分の手元に置いとく事ばっか考えてる様な、どうしようもないヤツなんだよ。
「じゃあ、ヒナ、大人になれるか確かめる?」
「だ、ダメ…」
「やだ。確かめる。」
あー今日、この瞬間もヒナは俺のだーって。
『Lovely☆kiss』fin.
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