「寺島さんに婚約者がいたなんて知りませんでした。兄もそんなこと一言も言ってませんでした。」
駅前のカフェで葉山とコーヒーを飲みながら、環はそうつぶやいた。
太一は寺島勇次のことに関しては比較的多弁だった。
そのことで太一と寺島が本当に仲が良いのだと環は認識していた。
「その豊洲みやびという女性ですが・・・SNSではかなりの有名人です。実は俺も聞いたことがある名前だと思ってはいたのですが。」
葉山は自らのスマホに目を落としながら言った。
「そうだったんですね。私、そういう方面には疎くて・・・」
「俺も仕事柄流行を押さえるためにチェックしているだけですが・・・環さんは承認欲求とは無縁な女性なんですね。」
葉山はそう言って環に微笑んだ。



