「あの・・・私は稲沢環と申します。稲沢太一の妹です。」
「・・・・・・。」
寺島夫人は憎しみをこめた表情で環を睨み付けた。
「よくのこのことこの家の敷居を踏めたものだわ。さすがあの男の妹ね。きっと碌でもない家庭で育ったんでしょう。ふん。幸薄そうな顔をして。」
「・・・・・・。」
「何よ。馬鹿みたいに黙ってないで、何か言いなさいよ。」
「・・・・・・っ。」
「あの男・・・稲沢太一と息子が出会わなければ、こんなことにはなっていなかったのに。きっと勇次はこの家を継いで悠々自適な生活を送っていたはずなのに・・・。」
環は知らなかったのだが、葉山が調べたところによると、寺島勇次は美容器具メーカーの社長を父に持つ跡取り息子だったらしい。
しかし寺島勇次は何故か家業を継ぐことを拒否し、家を出て全く違う仕事に就いていた。



