「これ、つまらないものですが、よろしければ召し上がってください。」
環は昨日デパートで購入した高級菓子を寺島夫人の前へ差し出した。
「どうも。」
にこりともせず寺島夫人は不機嫌そうな顔を隠さなかった。
夫人はそのまま押し黙り、環もなにから話そうか口ごもった。
沈黙を破ったのは葉山だった。
「突然お伺いして申し訳ありません。私は寺島君の学生時代の友人だった葉山という者です。覚えてらっしゃいますか?」
葉山はそう言って環に渡した物と同じ名刺を夫人に差し出した。
「そんな昔のこと覚えているわけないでしょ?」
けんもほろろにそう言って葉山の名刺をつまむと、寺島夫人はそれを見定めた。
「へえ。取締役社長ね・・・」
寺島夫人はそう言って鼻を鳴らした。
そしてその視線を環へ移した。



