「稲沢さん・・・もし差し支えなければ名前を教えて頂けないでしょうか。」

「え・・・?」

自分の名前を問われているのだと気づくのに、数秒かかった。

「私は環・・・稲沢環といいます。」

「環・・・良い名前ですね。環さん・・・とお呼びしてもよろしいでしょうか。」

「はい。」

強い視線に絡め取られ、環はたじろぎながらも頷いた。

今日初めて会った人に名前で呼ばれるのは不思議な感覚だった。

けれど何故だか嫌ではない。

それは葉山の誠実さが物腰や会話の端々ににじみ出ているからだと思った。