「都倉さん、来てくれたんだね」


震える想いを抱えて小鳥遊くんの前に立つ。

私の好きな優しくて素敵な表情で、笑ってるけど瞳に宿る感情は寂しそうで、心が痛い。


「行かないで」って言いたい。だけど、そんなこと言ったら小鳥遊くん困るよね…。


近くにいる小鳥遊くんが、遠くに感じる。


手を伸ばせば届くのに、想いを伝えたら小鳥遊くんが、もっと遠い場所に行きそうで怖いよ。


「ごめん…私が引き留めたせいで、電車行っちゃったね」

「うん。そうだね、次は15分後かな。…寒かったでしょ。これ…」

「…」


何気ない会話も苦しくて、無理な笑顔を作って笑ったけど、笑えてない。


心は涙の雨を降らせてる。

小鳥遊くんは、首に巻いてた白いマフラーを私に渡して、優しく丁寧に巻いてくれた。


あの時の匂いが体に染みる。


忘れることがない匂いを──…


胸が高鳴るのに、苦しいのは小鳥遊くんがすきだから、涙が目尻に溜まった。


やだ、やだ。ここで泣いたら小鳥遊くんを、困らせちゃう。

私、小鳥遊くんに恋してから泣き虫になったなあ。好きって言ったら小鳥遊くんに迷惑だ。

だけど…こんなことになるなら、小鳥遊くんに最初から言えばよかった。

ななせ先輩みたいに、素直に“好き”を伝えたい。

沙耶佳ちゃんみたいに…小鳥遊くんに言いたいよ。