さよならの前に抱きしめて

「沙耶佳ちゃん…。昨日会った友達の言葉の意味がわからないんです」


冷静になると、周りが見えるようになった。


──昨日のことは気にしないでね


小鳥遊くんと一緒にいた理由は、気になるよ。

でも、それって私が踏み込んでいいことなのかな?


小さな疑問は吹く冬の風に飛ばされて、降り始めた雪に溶けては、舞い落ちる。


「女の子って、そんなものだよ。わたしもわかんないときあるから」

「ななせ先輩もですか?」

「うん。いつの間にかウソの友達に思えて、人の顔ばっかり気にしてる」


ななせ先輩が続けた。


「女の子だからわかるよ、千夏ちゃんの気持ち。自分から動くのって怖いよね」

「拒絶されたらって思うと、足が前に動かないです」


影に隠れて、逃げてばっかりの足へと落とす視線。


アスファルトの上に、ぺったり張り付いた足は、嫌だ嫌だと繰り返して、立ち止まる。

後ろへ向くことも、前へ進もうとすることもなく、ただ過ぎてく今をぼうっと、他人事のように眺めてるだけだ。