さよならの前に抱きしめて

「なにかあったの?」


優しい問いかけ。
私は青空に包まれそうな自分の声を、絞り出すように言葉を選んで、ななせ先輩に渡した。

一つ頷いた瞬間、涙の膜が視界を覆ったんだ。


「私、よくわからないんです。昨日から、もやもやが取れなくて…。友達に“昨日のこと気にしないで”って言われて、その言葉に自分でも驚くほど傷ついたんです」

「友達って昨日会った子?」

「はい。私は気にしてないはずなのに、自分の気持ちがわからなくなって、小鳥遊くんにも当たっちゃいました」


我慢していた想いが、とめどなく溢れて止まらなかった。

整理できてない感情なのに、ななせ先輩は否定することも、肯定することもなく、耳を傾けて静かに聞いてくれた。

時折与えてくれる柔らかな視線が温かい。

『小鳥遊くん』と聞いた、ななせ先輩は少し困ったように眉尻を下げて微笑んだ。瞳には寂しさのような淡い色が宿っている。


「大丈夫だよ。千早、ああ見えて優しい所あるの。人の気持ちに気づける子だから、千夏ちゃんの気持ち、わかってくれるはずだよ。ね、安心して」


また、涙が止まらなくなっちゃった。
ななせ先輩の優しいところ、小鳥遊くんに似てるなあ。私のほしい言葉をくれる。


あとで小鳥遊くんに伝えよう。

『さっきは、きつい言い方してごめんね』って。

それから──…