さよならの前に抱きしめて

──キィ…ッ


錆びた音が耳奥にこもる。

吹く風は、寒さに慣れてるはずなのに、体を叩いて重たく冷たい。


はじめて来た屋上。気持ちとは正反対の青い空。


心ちゃんにもウソついちゃったな。
小鳥遊くんにどんな顔して会えばいいんだろ。

もう、やだ。


「帰りたいよ……」


溜めていた涙が、誰もいないことを理由に一粒頬を伝った。それを合図に、ぽろぽろと止まることなく雨のように落ちていく。

落ちる涙は、アスファルトへ小さな円を作っては、増えて、同時に涙声のか細い声が、空へ飲み込まれる。


うずくまって、整理できない感情と戦っていたら、ほんの数分後、同じように錆びた音が大きく聞こえた。

体が反応しただけで顔は上がらない。

静寂を纏う空間に、大人っぽくて甘い空気と、声が透明感を作り私の耳へ入る。


「千夏ちゃんもサボり?」

「……」


声の主は、ななせ先輩だ。頼らない口調で私の隣に腰掛けた。

泣き顔を見られたくない一心で、ブレザーの裾で涙を拭っては、知らない感情を消して息を整えた。