さよならの前に抱きしめて

もしかしたら、私は羨ましかったのかもしれない。
『好き』と言葉で真っ直ぐに伝えている、ななせ先輩が……。

だって私は、自分の気持ちすら溶けてしまいそうなほど曖昧で不透明で、どうしたいのかがわかんないもん。


ななせ先輩は恋をしているんだ。


秘めた想いを私に曝け出してくれたななせ先輩。

ほんのりと桃色に染まる、ななせ先輩の表情や仕草、声の温度がすごく可愛い。


「来週ね、その人の誕生日なの。わたし一人だと、勇気出せなかったから、ありがとう。プレゼント渡せる」

「そっ、そんなことないですよ!…でも、私でいいんですか?ななせ先輩だったら、きっとお洒落な友達とかいますよね?(そういうのに強い人と来た方がいい気がする)」


今日会ったばっかりの私じゃなくても、ななせ先輩の友達の方がいいと思うんだけど…。


私の口から出た、何気ない言葉を耳にしたななせ先輩は一瞬、悲しそうな表情を見せる。

最後まで出そうな言葉を、私は寸前で飲み込んだ。

聞いちゃいけないことを聞いてしまった、って思うと私は黙って俯くことしかできない。