さよならの前に抱きしめて

忘れている故に「とんでもないです。また、何かあったらいつでも声かけてください。へへ」とだらしない笑みを見せて、ご機嫌だ。

ななせ先輩に会釈をしたけど、まだ何かを言いたそうな雰囲気だったので、私は待ってみることにした。

耳を傾けること、数秒。


「あのさ、お願いがあるんだけど」

「はい?」


お願いってなんだろ。


「私でよければ……」


深く考えませずに、またお調子者の返事をしてしまう。

視界の端に見えた、ななせ先輩の唇が、きつく結ばれているのを捉えて、深刻なことなのかなって少し身構えてしまった。

それも束の間の出来事、私の返事を聞いた途端、ななせ先輩が「ほんと?いいの?」と、ふわりと桜のように微笑んだ。

ななせ先輩の『お願い』は、私の想像していたことよりも、簡単だった。

放課後、ななせ先輩と買い物に行くことになった。