ブラウンがかった柔らかい瞳が、じっと私を見つめる。唇をきつく結んだ表情なのに、ななせ先輩は『美』を纏っていて、私は途端に恥ずかしくなった。綺麗な人に凝視されるのは慣れてないんだ。

ななせ先輩は視線を左右に、何度も往復させて何かを言いたそうにしている。
私は思わず「あの…小鳥遊くんに用事ありますか?」と、聞いた。

すると、一拍置いてから、ななせ先輩の瞳が、パステルカラーの光を取り入れたみたいに、ぱあっとより一層明るくなった。唇の端を緩ませて、もじもじと言い出す。


うわあ……可愛い先輩だなあ。


「これ、千早に渡してもらえるかな」

「へっ?私がですか?」

「今朝、家出るときに忘れて行ったらしいの。お願い」


ぐっ、と一歩迫られて、有無も言わさずスマホを私に押し付ける。意外と強引な、ななせ先輩に私はあたふたとする。

つっけんどんに唇を尖らせて、恥ずかしそうに言うから、断れなくて受け取ってしまった。


渡すだけだからいいよね。
「ななせ先輩が持って来てくれたよ」ってたった一言だもん。難しくないよ。頑張れ、千夏。


心の中で、同じセリフをシュミレーションしている間に、ななせ先輩は走って自分の教室へ帰って行った。

私は、小鳥遊くんのスマホをブラザーのポケットに入れて、朝の騒がしい教室に入る。

小鳥遊くんが来るのを、ドキドキしながらずっと待っていたら、時間はどんどん過ぎていって…気が付けば予鈴が鳴る10分前。

ぞろぞろと、クラスメートが教室へと入る中に、小鳥遊くんを発見した。


あっ!小鳥遊くん来た……!


静かに椅子の音が鳴って、小鳥遊くんが隣の席に座った。