ラストノートの香る頃には

セーターに鼻があたる。

肌を突き刺すような寒い冬の今頃は、とてもシャツだけのような制服では凍えてしまいそうで彼はセーターを着ていることが多かった。

とても格好いい。

彼のまとう香りが薫った。
他の男子とは違うその落ち着いた優しい匂いは利発で大人っぽい彼にとても似合っていて私に安らぎを与えてくれる。

香水なんかよりも断然私はこの匂いを愛していた。

「二人で一緒にこのままいれたらいいね。」

「いれるよ。大丈夫。」

彼は私の体に顔をうずめて強く抱き締めてきた。

その時少しだけ私の瞳に映ったその顔が何だか今にも泣き出しそうで、私も彼をなるべく包み込むように優しく柔らかく抱きしめた。

彼の体温と心臓の音がとても近くで感じられる。

身長差のせいで彼と私とは頭一個分離れていた。

彼の顔を覗こうと上を向くと、あまりにも突然にキスを落とされる。

彼は私の唇の形をなぞるように唇を軽く押し付けるとそれ以上は何もしてこなかった。

彼の顔は微笑んで頬を紅潮しているのにやっぱり泣きそうだった。

憎たらしいことにことにそんな彼の顔もまた私は愛しいと思ってしまうのだ。

こんなんじゃ私も泣きたくなってしまうじゃない。