ラストノートの香る頃には

「愛してる。」  

子猫のような声を意識して囁くように彼に言ってみる。この塩梅は難しい。
高すぎず低すぎず猫がゴロゴロと喉を鳴らすような心地いい音を目指さなければならない。

彼は私のこの声に弱い。
そんなの彼が言ってきたわけじゃないけど私には何でもお見通しなのだ。  

彼は私を膝の上に手繰(たぐ)()せる。

彼の肩に私の黒髪が無造作に垂れていて何だかそれがとても艶めかしい。

「俺も。愛してる。」
 
その甘美な中低音が耳に響いた。

「うれしい。」

私ははにかむ。

「俺もうれしい。」

彼もはにかむ。

同じ問答を繰り返しているのが何だかおかしくてお互いを見つめながら笑い合った。

「もうちょっと強く抱きしめていい…?」

彼の切れ長の目が上目遣いでこちらを真っ直ぐ見ている。

返事するのも照れくさくてイエスの意味で微笑んでみた。

私はあとどれくらい彼のことを深く愛せるんだろうか。

瞬間に彼の暖かい腕が私の背中に触れて、ぐっと彼の胸へと体が寄せられた。