「あ、星野いちご」
困ったなー、と廊下を歩いていたら階段を上ってきたユイさんって人とバッタリ出会した。ちゃっかりフルネームを覚えられてたことに驚き。
「先日はどうも」
一瞬、どうするか迷ったものの、変に目をつけられるのも嫌だったから、足を止めてペコッと頭を下げた。じっちゃんも挨拶は大事だよと言ってたし。
しかし、ユイさんは何か不満でもあるのか、ムスッとした顔でダルそうに首の裏を手で擦って私を見下ろしてくる。
黙って見上げ返せば瞳を揺らして何か言いたげ。ファンすら居そうな国宝級のご尊顔を片手で覆って「はぁー」と小さく息を吐いてる。
「どうされました?」
「これから時間ある?」
「時間ですか?」
「あるなら付いてこい」
「えっ」
「話したいことがある」
私の態度から察したのかユイさんは返事も聞かずに歩き始めた。俺様と接することなんて初めてで暫く呆然。その場で突っ立ってしまう。
「……こっちだ」
すると彼は再びこっちに戻ってきて、私の手を掴んだ。女子を連れていくというより子どもを連れていく感じに歩き始める。
チラチラ様子を窺われながら、ゆっくり階段を上り4階へ。無言の背中を見つめたまま廊下を歩いていく。
ドコからともなく溢れ出るお兄ちゃん感。何だか思っていたのとは違う。意外と面倒身が良さそう。普段、面倒を見る側に立つことが多いから無性に胸が擽ったい。
「ユイさん、兄弟とか居ます?」
「あぁ。弟と妹が1人ずつ」
「まだ小さかったりしません?」
「9歳と5歳だ」
「やっぱり。私も妹と弟が居るんですよ。小学5年生と幼稚園児の」
「ふーん。下は一緒だな」
親近感がわいて身内の情報を交換。ユイさんは興味が無さそうだけど、鬱陶しそうにすることもなかった。弟たちについて話せば普通に返事をしてくれる。



