「てめぇ次にあったら、ただじゃおかねぇからな」
しかし、剃り込み君は諦めが悪い。額を近づけて“ああん?コラ”って恐ろしい形相で凄んできた。
腹立しげに肩を押され、思わずムッと眉を寄せる。許すまじ。この剃り込み男。
「だから女相手にヤメろって……」
「あ、私のことは気にしなくていいです」
ユイさんが止めに入ってくれたが、片手で制す。自分の身は自分で守ってこそ!って育て方をされてきたし。男の人の手を借りるまでもない。
「私。この男の言う通り、大人しくはないんで!」
いい加減、我慢の限界だったから苛立ちいっぱいに剃り込み君の顔面に正拳突きを放った。
途端に鼻血を吹き飛ばして後ろに倒れ込む剃り込み君。そこへ更に回し蹴りを顔に一発。首の裏に肘鉄を一発。軽くジャンプをしてみぞおちを踵で踏みつける。
「ぐは……っ!」
痛そうな低い呻き声を上げ、剃り込み男は地面で身体を丸める。そこで透かさず気の荒い猟師だったじっちゃんの教え通り、右足で獲物の身体を押さえてニコッと微笑んだ。
“召し捕ったり”のポーズだ。
『おっめぇ可愛いから危ない目に合わないか心配だぁ』と、過保護なじっちゃんからスパルタに指導をされて、あらゆる武術を学んできた。おかげで喧嘩は負けなし。
それに山で熊と遭遇して戦ったときに比べれば、ヤンキーとの喧嘩くらい全然余裕。熊は顔面を殴ったって怯みはしないし。
あの時は命の危機を感じた。じっちゃんと一緒に戦ってやっと勝てたくらいなんだから。
「あーあ。残念。負けちゃったね」
リマさんが傍に来て、蹲る剃り込み頭君の顔を覗く。コチラにも顔を向けて大丈夫?と気遣うような言葉を1つ。
「ザッコ……」
その傍でグレさんが冷めた目で飴を噛み砕いた。ユイさんは溜め息を吐いて呆れ顔。
負けたら自主退学は絶対的ルールらしいから煩い剃り込み君とは今日でお別れ。
これで平和な日常が始まるはず。なんて思ってた私が甘かった。実際には終わるどころか始まってしまったのだ。波乱に満ちた学校生活が。



