「ユイに目を掛けられてるからって調子に乗んなよ」
「乗ってません。任務を遂行してるだけです」
「気に入らねぇ。女だからって殴らねぇと思って高を括ってるだろ」
ガンッと机を蹴っ飛ばし、グレさんは私に掴みかかってきた。シャツ越しに腕を掴まれる。
「もう。いい加減にしてください。グレさん」
「はぁ?」
「聞き分けのない子はお仕置きです!」
埒が明かないので腕を掴み返してヒョイと背負投をした。ドンッと鈍い音を立ててグレさんの身体が床に落ちる。
「い…っ」
背中を盛大に打ち付け、グレさんの綺麗な顔が衝撃に歪む。直ぐにクールな顔つきに戻ったけど、背中を擦って痛そうにしてる。ちょっと申し訳ない。
「今の何?」
「すみません」
「いや、いい。それより何?」
「背負投もどきです」
「ふーん。あんた凄いね」
「はい……」
「俺をこんなに簡単に投げ飛ばすなんて。カッコイイ」
いったい何がそんなに彼の心に響いたのかは分からないが、グレさんは起き上がってキラキラと目を輝かせた。
ふらりと立ち上がったと思ったらガッツリ肩を組んできて、さっきとは別人みたいにご機嫌。尊敬の眼差しのようなものを向けられて“うっ”と狼狽える。
何だか懐かれちゃったみたい?凶暴な虎を飼い慣らしてしまったようで動揺。これからの関係が変わるような雰囲気をヒシヒシと感じながら私は倒れた椅子を起こしたのだった。



