最強乙女と無敵ヤンキー


 「いちごさん!チース!」

 「自分、川上っす。名前だけでも覚えてくださいっ」

 「あ、はい。どうも」


 四強のバッジを付けてから1週間。ユイさんから聞かされた通り、今までのことが嘘みたいに襲撃されなくなった。

 代わりに歩くだけで知らない生徒から次々と挨拶をされる。それに毎度律儀に挨拶を返して回るのも大変。


 「ちょ、いちごさん。やべぇっす」

 「今すぐ来てくださいっ」


 ヘルプを求める声が聞こえてきて振り返ると廊下の奥から男子生徒が走ってきた。目の周りに痛々しい青タンを作って切羽詰まった顔をしてる。


 「あなた達、その顔どうしたんですか?」

 「実はグレさんがバチクソにキレてて」

 「グレさんが?」

 「ツレが調子に乗ってグレさんに生意気言ったらブチギレて……」

 「バチボコのボコですか」

 「はい」

 「止めようとして、あなたも巻き添えを食わされたってわけですね」

 「そうっす」


 確認を取った私に男子たちは頷く。喧嘩に負けたら退学だから、喧嘩になる前に逃げてきたと。

 何とも自業自得なブチギレられ案件。ただこれがバッジを付けているものの宿命なのだろう。


 暴れている生徒を止めるためのバッジだ。特別扱いされる代わりに頼まれたら問題無用で動く。