最強乙女と無敵ヤンキー




 「おいコラてめぇ。うちの生徒じゃねぇだろ」

 「見たことねぇぞ。こんなヤツ」

 「俺らの学校に何の用だ」


 ヒビが入った窓ガラス。落書きだらけの校舎。地面に散らばったお菓子と煙草のゴミ。門の前に屯するガラの悪い不良たち。


 “天下無双(てんかむそう)我羅(われら)無敵暴威厨(むてきボーイズ)!”


 学校銘板の下にデカデカと黒いスプレーで書かれた、いかにもな言葉。


 「うわぁ……」


 背中に背負ったリュックの肩紐を握り締め、ついついドン引きした声をあげる。


 星野(ほしの)いちご。高校2年生。


 桜が舞う、4月初旬。親の転勤に付いてきて転入初日。入る学校を間違えたと早速後悔。登校してくるなり、さっそく不良たちから謎の洗礼を受けてる。



 今日から私が通うこの学校は巷でヤンキー達の登竜門だと噂されてる【爆虎高校】。

学校名からお察しな通り不良ばかりが集うやばい学校だ。


 不良界隈の中では憧れの学校で通学圏内に住んでいる不良たちは皆ここの高校に通いたがる。


 それこそ不良にとっては通ってるってだけで一種のステータス。街中で絡まれても『俺、爆虎高校に通ってから』と言えば、相手が怯んで逃げ出すほどの威力を持つ。


 だって喧嘩が弱いとココの生徒としては生き残れない。【喧嘩に負けたら即自主退学】って生徒たちの中で変なルールがあるらしいから。


 おかげで次々と生徒が辞めていき、1年生のうちは7つあるクラスが3年生になる頃には2クラスに減ってる。


 だから学年が上がるほど“喧嘩が強い”ってことで辺り一帯の不良たちから鬼のように恐れられる。


 制服を見るなり『やっべぇ!爆虎の奴らが来たぞ!散れ散れ』って猛ダッシュ。それこそ3年生なんて喧嘩をするまでもなく勝負に勝ってしまう。


 崇め奉られた不良たちはそりゃイキリ倒す。イキリ倒した結果が今だ。ここ暫く周辺を彷徨いてたけど、何度かそういう現場に遭遇したし。


 この学校の仕組みを教えてくれたOBのラーメン屋のお兄さんが『あの学校に通う?辞めときなよ。ガラが悪すぎて滅多に女なんて入らねえよ』って言ってたけど、これは本当だ。通う人の気がしれない。



 しかし、勉強が苦手な私が入れる高校はココしかない。通える範囲にあるのは偏差値高めの進学校ばかりなんだもの。