到着したのは、「景味」と書かれた料理屋だった。
それも割烹料理屋で、店内には綺麗に磨かれたカウンターに、綺麗に磨かれたグラスが並んだ棚、決して大きくはないが、こんな店、とてもじゃないが行けるカネはないし、行く気にもならない。
「ケンさん、いるか?」
「はいはい」と奥からメガネをかけた割烹着姿の白髪の老人が出てきた。
「ちょうど今終わったところや。すっかり準備はできてますよ」
「それはそれは……」
と女はドカッと、カウンターに座り、ハンドバッグからくしゃくしゃになった紙を取り出した。ケンさんと呼ばれた老人は、そのくしゃくしゃになった紙を手で伸ばしながら、メガネをかけ直し、目を細めながら見ている。
「うむ、たしかに」
そう言うと、弟子だろうか、割烹着姿の若い男が、綺麗な紙を取り出し、ヤヨイの前に置いた。ヤヨイはそれを手に取り、ざっと見て、ケンさんに渡した。
「野菜がちと高いのが気になるが、まあいいよ。カネはいつものバンクに」
「結構や」と頷き、今後は俺の方に向き、メガネに手をやり、目を細めて見た。
「あんさん、新人か? 見たところ、堅気のようや」
「あ、はい。アオイといいます」
「アオイくんな、ええか? どんなに汚い仕事でも、仕事は仕事や。ヤヨイに教わるんをそのままやるんは誰でもできる。見て学ぶんや」



