資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました







ニヤリと口角を上げた後、ふと吐息を漏らした途端、再びユーリが覆い被さってきた。


「ちょっ……! 」


その顔は、やっぱり息子のことを語る時とは大違いで――いや、それもそうなんだろうけど、ともかく。


「それっぽくしてくれるのは期待してない。せめて、静かにして。君がどこの誰だか知らないけど、ほんの数分くらい、王子様に見惚れてくれてもいいだろ」

「むっ……無理に決まってるでしょ……! 女がみんなあなたの顔が好きなわけじゃないんだからね……!! 第一、顔がよかったら何でもしていいわけじゃなっ……」

「……無理かよ。一応、子どももいる夫婦なんだけど」


それは確実に溜息だったのに、こんなに近くで吐かれると、耳や首筋に当たって――……。


(だったら、王子様キャラ貫け……! この性悪王子……!! )


「本当に何も覚えてないわけ? 別に、一度でノアができたのでもないっていうのに」

「〜〜っ、記憶にございません!! 起きたら、あんたと天使が横に寝てたの……!! いいから、離して……っん……」


もう一度、こんどはもっと深く溜息を吐くと、「静かに」と私の唇を掌で塞いだ。


「……んっ、離っ……へんた……似非っ王……」

「……誰だ」


低く、けれども咎めるような声は、さっきまでのふざけた調子とも、もちろんあの甘ったるい感じともまるで違う。
自分に向けたものではないと気づいてほっとしてしまうくらい、本能的に恐れてしまうような声だった。


「……っ、申し訳ありません。ノア様がお母様に会いたいと……」


ジル。
間に挟まれて可哀想だ。
それでなくても、この時間に夫婦の寝室に乗り込むのは気が引けただろう。


「入れ」

「……っ、いいのよ、ジル。気にしないで入って……! 」


(なに、その偉そうな言い方……いや、偉いのかもしれないけど。っていうか、入ってもらうんだったら、そこから退け〜〜っ……!! )


真っ赤になって押し返そうとする私にユーリはにっこり笑うだけで、ちっとも上から退く気配はない。


「……っ、申し訳ありません……!! あの、やっぱり……」


(最初のニヤリはこれ……!?!? )


あの時点で、足音でも聞こえていたのだろうか。
勇気が出ずに、ドアをノックするまでしばらくジルが悩んでいたことも知っていて。


「いや、いい。こちらこそ、こんな時間まで悪かった。おいで、ノア」


呼びかけられても、ノアくんはまるで私の気持ちが分かってるみたいにジトッと不満そうに父親を睨んでいる。


「まったく。父様だって、たまには母様といたいの。夜中くらい、譲ってくれ」

「子どもに何 (嘘を) 言ってるんですか。ごめんね、ノア。ジルもありがとう」


一体、何のパフォーマンスだ。
夫婦円満だと見せかけて、何の得になるの。


「拗ねたいのはこっちだぞ」


額を突く父にぷいっと顔を背けると、お決まりのポーズを決めるノアくんを抱っこする。
顔を真っ赤にして退出するジルを見送ると、腕の中の天使と一緒に、ユーリを睨みつけた。