資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました







はっきり言って、それから定時までが地獄だった。
気になって気になって仕方ないのに、考えれば考えるだけ混乱して――なのに、私ばかり彼を愛しくなっていく気がして。


「ごめんってば。でも、君だってひどいよ。いきなり俺の名前を呼ぶんだから。そんなの、我慢できるわけなくない? 寧ろ、よく耐えた方なんだけど」

「そ、そんなこと言われても。口が勝手に……と言うか、何だか分からないまま、発音してた」

「…………」


(……ひどいって言うか、狡い)


否定するのもつっこむのも途中でやめたみたいな、声にならなかった吐息。
まるで甘やかしたいから、それ以上言わないでくれたみたいな優しい瞳。
そんなのを見たら、こっちだってもう何も言えなくなってしまう。


「君は、どこまで覚えてる? 」

「まだ、ものすごく断片的にしか。夢にユーリという人がいて、現実のあなたもユーリで同一人物で……」

「結婚してて、子どももいて? 」


言ってもいいものか迷ったものをはっきりと言葉にされ、うっと詰まったところを笑われてしまった。


(……こっちのユーリは、ちょっと意地悪……)


夢の中のユーリは、もっと不器用さがあった気がするけれど、でも――その雰囲気はなぜか、本人だと確信させる。


「実は、俺もなんだ。俺も昨夜急に思い出して……でも、俺の場合は一気にほぼ全部思い出したんだと思う」


会社を出て駅までの道は、周りが驚くほど自然に一緒に歩いた。


「外で話せる内容でもないけど……」

「……そこは誘ってくれると助かるし、別にうちに来てもいいけど、散らかってます」


何せ、朝起きたらものすごくぐったりしてた。
寝たというよりは、めちゃくちゃ動いた後みたいだったし、頭の中もぐちゃぐちゃで、ごちゃ混ぜになった元の成分も分からず、それでいて涙が溢れていた。


「うちはわりと片付いてるよ。まさか、こんなに早く来てもらえるとは思ってなかったけど……君が平気なら」


強がりだと思ったのか、「エナっぽいな」と思ったのかは不明だけれど、ユーリはクスッと笑った後やっぱり文句の言えないような優しい表情で、そう言ってくれた。




・・・




彼の部屋は確かに綺麗で、無駄のない感じに整理されており、何だかムカつくくらい「ユーリ」らしい。


「何で、そんなに拗ねてるの。俺は、めちゃくちゃテンション上がってるのに」

「……嘘だ」

「どうして。君がほんのちょっとでも思い出してくれて、しかもそれをただの夢だって否定もしないで、俺と話してくれる。嬉しいに決まってるよ。だって、普通キモくない? 夢の中で君と結婚してましたって、知らない男がいきなり言い出したんだよ」


本当に嘘だなんて思ったんじゃない。
なのに、何も言えなかったのは、そう言われてますます私は納得するしかないからだ。
あれは、ただの夢なんかじゃない。
もちろん、彼が嘘を吐いているのでもない。

――私は、この人が好きなんだ。