資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました





王の間へと続く道を進み、あと半ばといったところに彼はいた。


「……エナ様。ノアも。見られたくはなかったなぁ。兄上、一体何をしてるの。愛する女性や子どもに見せるようなものじゃないよ」


――ヴァルモンドの首に、刃をぴったりと添えて。


「言っても聞かないのだから仕方ない。だが、見せたくないのは同じだ。剣を下ろせ」

「やーだよ。だって、もう分かってるんでしょう? この男は反逆者で、エナ様に怪我をさせ……僕の母を死に追いやった。まあそれは、女王様の命令でもあったんだろうけどね。ここの有能な医師が診ていれば、助かったかもしれないのに」

「……く……っ。母君を救えなかったのは、貴方も同じではありませんか…っ」

「よせ……!! 」


向けられていた切っ先が、ヴァルモンドの首筋に食い込む。
咄嗟にノアくんの両目を覆うと、ドレスの裾が再び握られたのが伝わる。
それでもノアくんは泣いても暴れてもくれなくて、私は小さな身体をそっとジルの方へと寄せることしかできない。


「……そうだよ。僕が力を使いたいと思ったのは、これまででたったの二回だ。でも、母さんの病に打ち克つには、僕の力は弱すぎた」

「そんな大切な力を使わせてごめんなさい。でも、私の傷は……」

知った(・・・)んですね。……そっか」


自分では見ることのできない傷が治ったことを知った。
それはつまり、ユーリが見て気づいたということで。
配慮の足りない自分を悔やみ、唇を噛む。


「そんな顔しないで、エナ様。貴女に僕の治癒能力が効いてよかった。それだけで僕は救われるし……大丈夫。もう少しで終わりますから」

「エイン……! 」

「大丈夫ですよ。自分の痛みにばかり敏感なこの男が、大袈裟に喚いているだけ。だってほら、たった今僕の能力について話したばかりじゃないですか。ね、こうやって……」


つ……と。
赤い雫が一筋首を伝う前に、エインの指先が触れるまでもなく血は止まっていた。


「さっきから、ずっとこの調子で困ってるんです。さっさと吐けば、楽にしてやるのに。傷ついては癒え、癒えた傷を今度は抉られる。ねぇ、その苦しみのほんの幾らかでも分かった? ……お前たちの傀儡になって、僕はこんな力を一体何に使う? 」

「エイン……」

「そうでしょう、兄上? こんな力を国の為に使えば、ろくなことにはならない。たとえば、兵士を癒し、医師を癒し、病人を癒やす。もしかしたら、たとえ戦になっても数度は上手く回るかもしれない。でも、その先にあるのは……地獄だ。それが分からない政治など、王など。この世界には要らない」


ユーリがエインのもとに駆け寄ろうとするが、彼はヴァルモンドを押さえたまま牽制する。


「母だってそうだ。力が先が、女性であることが先か。どちらにしても、王に利用されて終わったのだから。僕はね、兄上。そんな思いをもう誰にもさせたくないんだよ。兄上だってそうでしょう? それなら、これも同じだ」

「……お前は間違ってない。しかし、少なくとも母君については、少し違ったかもしれないんだ。あの二人は、もしかしたら本当に……」

「……っ、そんなわけあるか……!! だったらなぜ、母が追われ、他が隣にい続けた……!? 」


激昂したエインが、僅かな靴音を聞き取り身構える、


「追い出したのではない。逃がしたのだ」


――お前に力を使わせない為に。