「……レックス。ジルと一緒に、二人を外へ」
どうしよう。
王とエインのお母様の話を、エインにも伝えておけばよかった。
エインが謀反を起こす理由なんて、それしか思い当たらない。
そんなことをグルグルと考えている間に、ユーリが信じられないことを言い出した。
「……っ、何言ってるの……!? 私も行く……」
「これは命令だ。お願いじゃない。レックス……」
「聞かないわ。王様だろうと王子様だろうと、ただの好きな人だろうと。従いたくないことには従わない。……一緒に行く」
ドアを閉められてしまわないうちにユーリの腕を掴むと、足下でノアくんが私のドレスの裾を握りしめていた。
「ジル。あなたは……あなたには」
「大切な人がいます。でも、その命は私にも聞くことができません。申し訳ありませんが、エナ様と同じように、それは私が逃げる理由にはならないのです」
「レックス」
「俺の職務は何だよ。子守じゃないぞ」
誰も、何も譲らない。
やがて、皆の視線を一身に浴びることになったユーリは、両の掌を見せ降参した。
「まったく、どこに王子様がいるんだ。……エインがお前らにどうこうするとは思えないが、気を抜くなよ。ヴァルモンドが諦めたとも思えない」
「三つ巴か。面白くなってきやがった」
「まだ分からん。……誰も死ぬな。この命令は絶対に聞いてもらう」
「王子様は、自分と妻子の心配だけしてりゃいいんだよ。いずれいい王様になるなら、どれだけ時間がかかろうと後は勝手に着いてくる。……エナ」
名前を呼ばれても反応できずにいる間に、レックスは跪き頭を垂れた。
「貴女と新王、御子の世の為に。私の妃殿下」
(……あ……)
『その時は跪くさ。それまでは立って……』
レックスはそう言ってたっけ。
冗談だと思ってたし、国王の前でもふざけていた。
私の正体を知った今、まさか本気で――……。
「〜〜っ。レックス、貴様……」
ゆっくりと恭しく。
跪いたまま、今度は本当に私の手の甲に口づけたレックスは、サッと立ち上がるとニヤリと口角を上げた。
「急ぐぞ。すべて終わって皆無事なら、苦情を聞いてやる。未来の妃殿下に忠誠を誓って、文句を言われる筋合いはないと思うがな」
「友人の妻に長々口づけておいて言うことか。さっさと案内しろ」
「必要あるか? 」
扉の外に出ると、皆がこちらへ逃げてくる。
この流れに逆らって進めば、そこにいるのはエインか国王か、それともヴァルモンドの一派か。
「……誰だか知らんが、余程恐ろしいものを見たようだな」
「…………」
メイドたちだけでなく、屈強な兵ですら、混乱、呆然、恐怖の表情を浮かべて固まっている者もいる。
「誰だろうと正すだけだ。この国を……この世界を闇に落とすわけにはいかない」
――行こう。この幸せを、守る為に。



