資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました




優しく額同士が触れ、恐る恐る見上げれば甘い熱を孕んだユーリの視線とぶつかる。


「今思えば、王よりも権力に執着したのは母だったかもしれない。いや……父を愛していたのは本当か。最悪な方向に道を誤っていたが」


エインのお母様を追い出した。
それも、夫を愛したからなのだとは思う。


「ヴァルモンドが今になって動いたのも、それが理由かもな。母の死を待って、準備をしていた。エインが城に戻ったのも、あいつが手を回したのかもしれない。そうすると、エインは術に嵌るふりをしてここに現れたことになる」


お母様のことだろうか。
それとも、父である国王のことか。
己の、力のことか。


「何にせよ、恐らくもう止まらない。エインが奴に唆されるとは思わないから、俺がヴァルモンドを潰すか、この国を乗っ取られるまで」

「……っ」


思わず当てもなく身を乗り出したせいで、ユーリの胸にぶつかる。


「させるものか。確かに、俺には何の力もない。エインやお前と比べて、特殊な技能は何もないのは事実だ。だが、この国を想って尽力することはできる」

「……私にしたら、あなたの方が余程すごいわ。お世辞でも、気を遣ったのでもない」


その想いがあること自体、他には代えられないほど尊いものなのだ。
私にも、もしかしたら今のエインにもない「力」。


「あなたには、あなたにしかない力があるわ。それでも、自分を疑いたくなる時も、きっとある。私なんて、ずっとそうよ。これまで生きてきたなかで、ずっと」


私なんて、何の力もないと思ってた。
目に見える成果はなくても私なりに毎日頑張ってはいたし、満たされない何かを埋めるように学んだり努力もしてきた。
それが間違っていたとか、無駄だったなんて思ってもいないけれど。


「だから、もしそんなことがあったら……私を信じて」


――本当にこれでいいのかって、不安は常に抱えていたから。


「それは、随分と楽だ。まさか俺が、そんなふうに思う日が来るとは。……自分以外、誰も信じてはいけないと思っていた。自分のことすら、よく分かっていないというのに」

「それを、好きって言うのよ。私も最近知ったから、偉そうなことは言えないけど」


日々の忙しさや嫌な気分に呑まれ、自分の気持ちすら見失うこともある。
それでも無条件に身を寄せていられるなら、それは確実に「大切で、好き」なのだ。


「……だな。しかし、お前に触れるには随分不足した言葉だ」

「……っ」


ユーリは狡い。
額を重ねている時点で、この状況にそぐわないほど甘い声で、私に話し掛けてくれているというのに。


「愛してる。俺と一緒に生きてほしい。もちろん、ノアとも」

「……こんな時まで、ノアくんを持ち出すのね」

「効果的なんだろ」


ジトッと見上げたのは演技だ。
それすらもバレたのか、ユーリはふわりと笑って首を振った。


「無理はしなくていい。この先もずっと、変わらずに俺は(こいねが)っているから」


だから、私も小さく首を振り、ユーリの首に腕を回した。


「……エナ。それ以上誘えば、さすがにしばらくはノアの名前は言えなくなるが」


本気で困惑しているらしいユーリに、今度は私がクスリと笑う。
そして、どちらからともなくキスが始まると、お互い何を迷っていたのか忘れるくらい、止まらなくなった。


「……っ」


そして――ついにドレスの背中の部分が(はだ)かれた時、息を呑んだのはユーリの方だった。


「……あ……。もうほとんど痛みはないんだけ
ど……」


そんなに醜い傷跡なのだろうか。
見えない箇所だから、あまり自分では気にしていなかったけれど、好きな人に見られて固まられたのは結構ショックだ。


「そうじゃない。自分のせいで傷を負った女の肌を見て怖気づくほど、酷くも弱くもない。お前には悪いが、寧ろ……癪だな。いいことだとは言え……やられた」

「え……? 」


言っている意味を理解できない私に、やれやれと息を吐いたユーリは言葉と違いほっとしたようで――反面、本当に悔しそうでもある。
ますますポカンとしている私の頭を撫で、その理由を続けた。


――背中の傷が、綺麗に消えている……と。