あれから、すぐにでも王の間に押し入ろうとすると、ユーリとレックスに「仮病がバレる」と止められてしまった。
そもそもこの部屋にはみんなしかいないのだから、仮病をするつもりはあったのかとレックスに文句を言ったが、彼はふんと鼻を鳴らすとわざとらしく肩を竦めるだけだった。
逸る気持ちを抑えて夕刻まで待ったけれど、結局エインは戻ってこず。
作戦という名の無鉄砲が発動することになった。
「エナ。傷が悪化して熱が出たと聞いたが」
以下、「大丈夫か」「具合はどうだ」とは続かない。
仮病がユーリを呼ぶ為の嘘であることは、最初から承知のうえだと言わんばかりだ。
「時期王に、ユーリ様ではなくエイン様をと仰せになったと。そんなことを聞いては、臥せってはいられませんわ」
「エナ」
できるだけ「エナ」っぽくなるように声を上げる私を、ユーリが甘い声で宥める。
制止というにはあまりに優しく抱き寄せられ、その熱っぽい目に絆されないぞと再び王座を見上げた。
『俺の腕にいろ。それが条件だ』
そう言われたとおり、ユーリの腕に守られている。
夫の腕の中で、遥か上から見下ろしてくる人物に噛みつくのもどうにも迫力がない気がするけれど、正直ユーリの申し出は有り難かった。
「言ったのは私ではない。そんな意見もあった。それだけのことだ」
「では、貴方様はどうお考えに? ユーリ様だけではなく、ノアのこともあります。私にもお聞きする権利がありますわ。それとも、女は議会に入るなと」
「飛躍しすぎだ。それにしても、エナ。そなたが政に興味があるとは。それとも、興味があるのは王位継承者となる者だけか? 」
「私が愛しているのはユーリ様です。尊敬もしている。だからこそ、そんな話が出たこと自体解せないのです。皆が求めているもので、ユーリ様にないものとは何だろうと納得がいかないのですわ」
王は鼻を鳴らしたが、聞こえなかったことにして睨むように見上げるのをやめなかった。
ここで怯んでも終わり、言い包められても終わり。
ここで諦めてしまったらエインは戻ってこず、ユーリは失脚して、ノアくんまで誰かに攫われてしまいそうな気さえする。
だから、やめない。
諦めちゃいけない。
ユーリが庇ってくれたとしても、やはり何か起きた時に彼はいなくてはならないのだ。
「……下がれ」
王がこちらへ降りてくる。
目を見張ったユーリが私を後ろに隠そうとしてくれたが、精一杯抵抗する。
今ここに、ノアくんはいない。
だから、もしもまた奇襲があったとしても、その寸前まで分からず、避けることは不可能。
それなら絶対に、私の方がユーリを守るべきだから。
「〜〜っ、暴れるな。約束と違う」
「腕にいると言っただけで、あなたを庇わないとは言ってないわ。それにこう、あなたの腕にいたら何かの拍子に私が上になることもあ……」
「おかしな屁理屈を言うな……! 別に上になってもいいが、それは今じゃない。大人しく……」
「ユーリこそ、こんな時に何を言っ……」
わざとらしい咳払いが厳かな王の間に響いて、ユーリと私は互いに腕を絡ませたままピタリと止まる。
「いつの間にか、仲良くなった本当らしいな。演技などせず、最初からそうしていればよいものを」
「……貴方の目的が何であろうと、エナに手出しはさせない。ノアにもです」
思わずふっと力が抜けた隙に、ユーリが私を抱きすくめた。
「初めてだな。そうして、私に面と向かってはっきり刃向かったのは。ノアのことでさえ、適当な理由をつけては逃げて避けてきたくせに」
「……情けないことだと恥じている。やはり、貴方が望むのは、息子でも孫でもなくただの力なのですか。そうだとするなら、俺は」
「もしもそうなら、もっと早くにエインを呼んでいる。だが、どんな力にせよ、あるに越したことはない」
「……そんな……」
力を授かったのは、エインやノアくんの意思でも希望でもない。
それを使うか使わないかは、悪用しない限り彼らの自由だ。
「平和慣れしたそなたには分からんのだ、エナよ」
「……っ……。確かに、私は政治に疎いですが、しかし……」
「そうではない。もう演技は不要だと、先程も言ったはずだ。そなたがこの国の……いや、この世界の住人でないことは分かっている」
ユーリが息を呑み、今度はしっかりと私を後ろ手に隠す。
「……父上。なぜ、貴方はそのような……」
「二度目は対処が早い。ただ、それだけの話だ。それより、茶番はもうよい」
――本題に入れ。



