資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました





ジルとレックスの案により、私は仮病を使いベッドに横になっていた。


「演技の勉強だ。頑張れよ、ちび」


レックスに命じられたノアくんは、嫌がるどころか神妙な顔つきで頷き、ベッドの上で母様を心配してくれている。
やがてユーリと思しき、いつもよりも荒い足音が聞こえてきた。
今の段階では、ユーリも仮病だとは知らされていないのだろう。
申し訳なく思いながら、彼がドアを開けるのを待つ。


「……っ、エナ。どうした。傷が痛むのか……? 」


まるで呼吸を確かめるように身を屈めて、そっと私の髪を整えるように撫でる。


「ん……。大丈夫……」


部屋の中には私とユーリ、ノアくん。
それに、レックスとジルしかいないはずだ。
それでも、思わずどっちにでも取れるような曖昧な言い方をしてしまったせいで、ユーリは労るようにそっと触れていく。


「……ごめんなさい。私は何ともないの。エインが見当たらないって聞いて、心配になって。直前に部屋に来てくれた時、様子がおかしかったから」


そう。
あれから、ユーリを呼ぶ前にエインの部屋を確認してもらったが、やはり部屋はもぬけの殻だったそうだ。


「大っぴらに探すのはまずいだろ。そもそも、あいつだって街に出ることくらいあるさ。やっぱり、考えすぎじゃないか」


ベッドから起き上がっても、まだ私から離れないノアくんをチラリと見て、レックスが言った。


「いや。俺は、エナの勘を信じる。だが、そうなると自分から姿を消したのか、もしくは……」


――何者かに、捕らえられたのか。


「どちらにせよ、放ってはおけない。それに、議題にはあいつのことも含まれていた。……勝手に動くなとは言っておいたが」

「エインのこと? 」


とてもいいことだとは思えず、思わず聞き返したけれと、私が聞いていいことだっただろうか。


「いいんだ。どのみち、すぐに城内に知れ渡る。以前なら一笑に付すか、忠誠を問うてもいいところだ」

「どういうことだ。まさか、お前……」


無知な私より早くレックスが反応し、ユーリに詰め寄る。


「俺が王座を明け渡すんじゃない。別に座りたくもないが、だからと言って譲れるものではないからな。だが、なぜかこのタイミングで、エインの名が挙がるようになった」

「エインが王様になりたがるとは思えないけど……」

「そうだ。もちろん、反対の人間もいる。母君のこともそうだが、そうなる教育を受けたわけでも公務を手伝いたがるわけでもないから。つまり、本人の意思とは無関係だ」

「それって……」


何者かが、今頃になってエインを担ごうとしている。
エインにそのつもりがないのなら、理由は一つしか思いつかない。


「王に聞くしかないな。俺ではなく、エインが適任だと思っているのかどうか」


――王位を継承するのに、何か特別な力が必要なのか。

エインを王にしたいのなら、少なくとも今は無事でいるのだろうか。
エインが頷かなければどうする?
それに、王座に据えたい理由が治癒能力なら、まずはその力を間近で見てみたいと思うのでは?


「協議は中断となったが、おかげで敵は見えてきたような気もする」

「そうは言うがな。聞いたら、はいそうですって教えてくれると思うのか? 」


王はどちらの側にいるんだろう。
ユーリの側か、それともエインを無理やり王にしようという一派か。
そしてその答えは、必ずしも兄弟の幸せとは一致しないものなのかもしれない。


「私が聞く」

「……は……」

「……な……」


血迷ったわけじゃない。
もちろん本気で、正気だ。
なのに、レックスもユーリもぽかんと同じ形に口を開けている。


「ユーリがダメなものを、あんたがやれるわけないだろ。馬鹿も休み休み……」

「気持ちは嬉しいが。お前に危険なことをさせるわけにはいかない」


ほとんど言い終わっていたレックスの主張を遮り、ユーリはそう言ってくれたけれど。


「私はあなたが王位を失うかもしれないと思って、ヒステリーになるの。甘い王子様は、それを宥めるだけ。王やその周りを観察しながらね」

「……ダメだ。そんなことをしたら、お前に疑いがかかる。また狙われたらどうする」

「あの時狙われたのはあなたよ。それに、私が喚くのは日常茶飯だったはず。……このところちょっと、みんなのおかげで丸くなったけど」


ジルの手前そう付け足したけれど、彼女もどう反応していいのか困ったのか目を逸らした。


「この案がどうかと言われれば、もちろん止める」

「生憎、私はやってみるつもりよ」


溜息をユーリの腕の中で聞く。
さらりと髪を掻き上げられて初めて、他にも人がいて恥ずかしいと思った。


「それに心外だ。それだと、甘い王子様は演技みたいではないか」


『違うの? 』とは聞けない。
無茶を許すのだから、これくらいの意地悪は受けろというようにそっと口づけが降る。

そう、演技ではないのだと。
本当に愛していて、心配で堪らないのを分からせるかのようなキスだった。