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「エナ様、おはようございます。傷の具合はいかがですか」
「もう平気よ」
「ノアもおはよう。今日も元気みたいだね。はい、今日のお土産。エナ様が何も受け取ってくださらないから、その分豪華だよ」
その言葉どおり、この日のノアくんへのプレゼントはこれまでと比べても一番豪華だ。
たくさんのぬいぐるみ、絵本、積み木の玩具――とても一日では遊びきれない量が、ノアくんの足元に山となっている。
目を輝かせた後、ぺこりとお辞儀をするノアくんを見つめる瞳は、相変わらず優しい。
「ふふ。気に入ったならよかった。どれか一つでも、ノアが好きなものが見つかったのなら。でも、別に何もなくたって構わないんだよ」
疑問符を浮かべて首を傾げるノアくんを抱っこして、エインはそっと額を重ねた。
「ノアの道がある。なくたって、他の奴らに何言われようが関係ないってこと。ね、ノア。僕は、君の父様じゃないけど」
――愛してる。
「……っ、エイン……」
囁かれたのは私ではなくノアくんで、私には何も聞こえなかった。
それところか、唇の動きもよく見えなかったのに、エインはそう言ったとしか思えなくて。
「予想外でした。貴女も、兄上の行動も僕には絶対読めると思っていたのに。でもそれも傲慢な考えで、結局、僕もあいつらと同じだったんですね」
何かを遮ろうとしたのを逆に遮られ、それが何だったか考える間もなく、エインはにっこりと笑ってそれ以上言わせてくれなかった。
伸びかけた手が止まる。
私は受け容れることができないのに、エインが触れようとした時に拒んだのは私なのに。
そう思うと、とてもその背中を追うことはできなかったけれど。
「ははしゃ」
スッとノアくんの腕が上がり、泣きそうになりながらドアの方を指す。
さっきまであんなにご機嫌だったのに、どうして――……。
「……っ、ジル。ノアをお願い」
すぐにドアを開けたはずなのに、既にエインの姿はない。
「……王妃。中にいてくださらないと困ります」
すぐそこに見張りとして立っていたレックスが、言葉だけは丁寧に言った。
「エインはどっちに行った!? 」
「自室じゃないか。……っと、待てって。まさか、自分に好意をもってる義弟の部屋に行くつもりか。あんたがどうなろうが知ったこっちゃないが、あいつが困る」
前のめりになった私の身体を押し留めると、彼は小声でいつもの口調に戻して言った。
「……ごめん。でも、様子がおかしかったの。騒ぐと確かに迷惑になるから……ユーリに知らせてくれないかしら」
「今は無理だ。王を含め、お偉い方との協議中だからな」
「でも……」
何の根拠もないのに、大事な会議を中断させるわけににはいかない。
私が騒げば、ユーリの評判を落とす。
でも、嫌な予感がする。
このまま時間が経つのは、あまりに危険な気がした。
「……エインが部屋を出てから、ノアくんの様子がおかしいの。私も変だと思う」
「……遊び相手がいなくなって寂しいんだろ。どこもおかしくない」
「本当にそう思う? ……ユーリは、あなたは気がついていると言った」
息を呑んで目の奥を探るように見つめられ、怖かったけれど逸らさないように必死で見つめ返す。
「私のことを利用してくれて構わない。ノアくんとユーリ……この国の為に、力を貸してほしい」
「……俺が何だか忘れてんのか、お妃さん。あんた、いよいよたちが悪いな」
「もちろん、覚えてるわ。あなたは心からのユーリの親友で、部下で、この国に必要な……」
「なら、利用されるのは俺の方だろ」
そう言われては言い返せない。
どこの誰だとも分からない、身分なんてそもそもない私にお願いという命令をされるのは、さぞ癪だろう。
「……俺の首も守れよ」
「……当然」
レックスだけじゃない。
誰のことも、奪わせるものか。
その気持ちが伝わったのか、レックスはわざとらしく首を鳴らした後、ニヤリと笑ってみせた。



