資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました





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……………で。


(……目が覚めないのはなぜ……!?!? )


「ははしゃ……??」


途方に暮れた私を見上げて、まだ母だと呼んでくれてるし。
不思議がりながらも、両手を「はい! 」って上げてこられると、抱き上げて膝の上に乗せたくなる。
一瞬きょとんとしたこの子――ノアくんは、抱っこすればものすごく嬉しそうにきゃっきゃと笑ってくれる。
本当によかった。少しは適応できて。


(……って、だめだめ! ダメだから……!! )


夢だ。
夢なのだから、いいかげん覚めるべきなのに。
カーテンから光が漏れても、さんさんと降り注いでも、鳥がチュンチュン鳴こうが、いっこうにその気配がない。

それに。


「本当にどうしたの? 熱でもあるんじゃ……後で医者を呼ぼうか」

「……い、いえ。お構いなく」


(……しまった)


今のは完全に夫婦の会話じゃないどころか、他人でしかない返事だ。
案の定、彼――「エナの」旦那さまと思しき男性は、不審そうに眉を顰める。
ノアくんよりも、こっちの方が大問題だ。
昨夜は「久しぶり」という情報をむこうからくれたから交わせたものの、そう長い時間はもちそうもない。
ううん、夢なら別にバレてもいいはずなのに、そうジロジロと眺められては気が気じゃなかった。


「……そう。少しでもおかしいと思ったら、すぐに言うんだよ。ジルにも伝えておく」

「……あ、ありがと……っ」


とりあえず、彼の名前が分かれば――そう思ったのを見透かしたように、手首を取られる。

「……っ」


痛……くはなかった。
でも、怖い。


「君の侍女に、ジルなんていないよ。そうだろう、エナ? ……それとも」


――お前は、何者だ?


そのまま、捻り上げられると思った。
でも、なぜか彼はそうせず、ふっと甘く笑う。


「……なんてね。そろそろ俺は出ないといけないけど、何か消化のいいものを用意するように言っておくね」

「……ありがとう……」


手首は――やっぱり、痛くない。
解放された箇所を思わず擦ったけれど、やはり何ともなかった。


「ととっ!! 」

「ごめんごめん、ノア。ユーリ(とと)様はお仕事に行かないと。母様を守ってくれよ」


批難するように呼んだ我が子を抱き上げて頭をぽんぽんすると、わざとらしく名前を教えてくれた。


(……どういうつもり? )


これが夢だという大前提は置いておいて、自分の妻が記憶喪失だったら普通は大騒ぎだろう。
ううん、彼の今の言い方だと、妻そっくりの偽物が寝室に現れたと考えたようだった。
そしてそれは、ほぼ正解なのに。
問い詰めることをしないどころか、我が子を預けていくなんて。


「じゃあ、名残惜しいけど行くね。俺の奥さん……と」


――愛しい、私の妃。


(きっ……妃……)


「気が早いかな。でも、俺はそのつもりだし。君には苦労をかけるけど、君もご両親もそのつもりだっただろう? 」


圧倒的に情報が足りなすぎるのに、キャパオーバーの難易度MAXなのだけは分かる。


(早く目、覚めて私……!! )


――願いも虚しく、この夢はまだ、続いていく。
悪夢は、まだ始まったばかりだ。