資格マニアの私が飛んだら、なぜか隣にこどもと王子様が寝てました




深く息を吐き、大袈裟に両手を上げて私から離れると、エインはノアくんの頭を優しく撫でた。


「もう。ノアは、僕を応援してくれると思ってたのに」


大声を上げたのは最初だけで、エインにぽんぽんされてもノアくんは嫌がらない。
寧ろ、もうほぼ泣いていないみたい。


「父親が変わるのが嫌? それとも、エナ様を独り占めしたいのかな。何にせよ、僕がノアの味方だって知ってるくせに」


ノアくんの返事はない。
ぷいっとエインから顔を背けると、私の方へ歩いてきた。


「参ったな。これじゃ、本当に二人きりの時じゃないとエナ様を口説けない」

「二人きりになることなんてないわよ」

「ですよね。困ったな。そんなに僕に興味がないですか? 兄上に有益な情報かもしれなくても? 」

「話したいなら聞くけど、何かを差出してまで無理に知りたいとは思わない。今のところ、一連のことに関係しているとも思ってないし。そもそもエイン、本当に私に聞いてほしいの? 」


本当に私といたいだけ?
それだけの為に、言いたくもないことを教えてくれるつもりなんだろうか。


「聞いてほしいと言うか。貴女になら、教えてもいい。だって、秘密ですよ。それを知られてもいい……いや、知ったうえで好きになってほしいという、傲慢だけど、ものすごく深い愛情です」


心からの疑問だったのに、エインはなぜか爆笑して。
わざとらしく、人差し指を唇に当てて言った。


「貴女のことも、僕は兄上より分かっているつもりです。それに、絶対……兄上より貴女を知りたいと願っている。ノアのこともですよ。今僕を大好きになってとはいいません。でも、貴女に興味を持たない夫より、ずっといいと思いませんか? 」


もう一度、エインがスッとこちらに指先を伸ばした時。


「……誰が、自分の妻に興味がない男だと? 」

「……ああ、ほら。今、自分でも言ったね。兄上が興味を示すのは、自分の妻という立場の女性だ。もしくは、未来のお妃様。エナ様自身じゃない」


じっとドアを見つめるノアくんに気づいた時には、静かに開いてユーリの声が聞こえていた。


「そうかもしれない。妾を作れと言われても面倒で、であれば世継ぎをどうにかしろと言われ、それなら妻には望んでここにいてもらった方が楽だった。そんな夫にエナが気づかなかったはずもないが、おかげでノアを授かった」

「王子様でなければ、許されないね。ううん、王子様だからって、そんなの許されていいのかな」

「そのとおりだ。たとえこの城では義務だったとしても、許されることじゃない。……だが」


――これからは、違う。


私の腰をぐっと抱き寄せて、ユーリの目はまっすぐにエインを射抜いた。


「……へぇ。兄上は、この女性が好きなの? 」

「そうだ」


何も知らない人には、特に疑問もない言い回しなのだろう。
でも、互いに「エナが別人だと知っている」と主張し合うような応酬は、私一人気が気ではない。


「やっぱり、そうか。じゃあ、僕たちはライバルだね」


にこりと。
まるで当然のようにエインは言ったけれど、真意は違う。

――エナが本物ではないのなら、第二王子だろうと妾の子だろうと平等だろうと。


「……だな。だとしても、何も変わらない。渡すものか」

「選ぶのは彼女だよ。あと、ノアも」


オロオロと、でも興味津々といったジルの視線と。
下からは、不思議そうに首を傾げるノアくんからも見つめられる。


(……私にも、何が何だかだよ……)


――だから、それどころじゃないっていうのに。